【帰ってきた】ガチ議論
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トピックス

研究者の待遇問題 -文科省お役人への質問のまとめI-

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『ガチ議論企画その1:「文科省お役人への質問大募集」』にコメント投稿を多くいただきました。文科省科学技術改革タスクフォース戦略室との会合に先立ち、ここでいったん皆様からのご質問を整理させていただきたいと思います。内容により大きく3つのテーマ(I. 研究者の待遇問題; II. 文科省について; III.その他の問題)にわけて、それぞれについて記事を立ち上げました。ここではまず、ひとつめのテーマをご紹介します。 日本の研究者の待遇に関してのご質問が多くありました。無給で奉仕させられる院生や、博士余りで不安定な雇用に甘んじなければならない若手研究者など、研究者の待遇の悪さについて問題が提起される一方、適正にあわせた柔軟な人材配置ができない現状についてなんとかできないのかというご質問などがありました。会合では、戦略室の官僚の方がこうした研究者の待遇の問題をどう捉え、その解決にむけてどのようなご意見をお持ちかお伺いし、議論を行う予定です。頂いた回答については後日、独立した記事としてアップいたします。また、これと平行し、こちらではいただいたご質問(下記参照)について皆様からのご意見を募集します。質問にはそれぞれ番号をつけておりますので、コメントを投稿いただく際には「II-3」など、質問の番号をお示しいただきますようお願いいたします。 以下に『ガチ議論企画その1:「文科省お役人への質問大募集」』に寄せられた皆様の質問をまとめます。 . I-1 日本の院生の待遇の悪さA 日本の院生は、学費+生活費が自己負担で、5年以上の過重労働と科学への主要な貢献にも係わらず数百万円の借金を背負う可能性が高いという点で、世界的に極めて特殊な存在です。支援機構は単なる学生ローンに過ぎませんし学振などの支援は不十分で恩沢も一部に留まります。抜本的な待遇改善のためには、学費廃止・最低賃金の保障とそれを可能にする少数精鋭化が避けられません。大幅な定員減に舵を切る見込みは無いのでしょうか。(K_MIyamichi さん) . I-2 日本の院生の待遇の悪さB 最低限の給与を院生に支払う米国でさえ、合理的なネイティブ達には産業に逃げられており、学生の異常な献身に頼る日本型は世界的に奇異に映ります。また資金を獲得せずとも無料の院生が定常的に確保される状況は、教員の新陳代謝を滞らせる一因になるかと。学生を雇えなくなれば場所を整理でき、そこに新しい教員を採れるはず。お金の流れを抜本的に変え、教員が獲得した研究資金が学生をサポート出来る形になる可能性は有りますか (S_OTA さん) . I-3 日本の院生の待遇の悪さC 研究室配属時に「君達の相手は海外のプロ。プロ意識を持て」などと言う教授もいるが、では給与は?と言えば、博士課程に「学費と同程度」渡す、という学生扱い。「バイトなんて研究者のやることじゃない」から生活費は両親からの仕送りで賄う、なんて平気で言う院生も多い。院生が最低限生活できるだけの体制は整えるべき。個々の大学の教授陣の意識改革を待つより、上がきちんと決めるべき。その為に院生の数を絞るのも仕方ない。(SH さん) . I-4 若手研究者の雇用不安定/ワーキングプア問題 若手研究者の雇用不安定/ワーキングプア問題は、国が取ったポスドク1万人計画が先々までデザインされていなかったという国の失策による部分が大きく、ポスドクの自己責任では済まされない問題です。科学技術立国日本の将来を背負う若手研究者にどうやって雇用と研究環境を提供していくのか(経済の鈍化などといったexcuseはこの際抜きにして)具体的な方針を教えて下さい。(Taruho KURODA さん) . I-5 学振研究員の待遇の悪さについて 学振の「採用しても雇用関係はないから健康保険とかの社会保障はなしな。でも他の所から金貰うんじゃねーぞ」にはMEXTとしてはどう思ってるんですか?(GNK さん) . I-6 博士倍増計画はまずいのでは? 自民党が博士をさらに倍増させる計画を発表していますが、いったいどういうつもりなのでしょうか。これまでの大学院・ポスドク問題をどうとらえてどう解決するつもりなのか、まったく見えてきません。博士のキャリア問題は日本だけでなく欧米でも同様な状況なのですが、いったい自民党はそういう勉強はなさっているのでしょうか。博士倍増案は誰のどういうプランであるのか、責任をもってはっきりさせていただきたい。(Kashimata さん) . I-7 任期制は奴隷制? 研究機関の任期制職員が、定年制職員に比べ、経済的に不利な立場で雇われている合理的な理由はなんですか?任期制職員の雇用条件、任期、契約更新など生活基盤そのものの決定を定年制職員が決めているという構図は、研究者に2種類の身分階級があり、一方が他方を奴隷としているのも同然ではないかと思われますが、どのようにお考えでしょうか。(任期制研究員 さん) . I-8 適正にあった配置転換の仕組みの導入A とかく研究行政のてこ入れというと、大型プロジェクトにどかんと研究予算をつける話を連想します。そういったプロジェクトのリーダーは、研究者というよりはマネージャー的資質が有能なのではないかと疑いたくなりますし、遅く生まれてきたものはいつまでもプロジェクト組織の最下層で働くしかないのかなと思ってしまいます。年齢とすばらしい研究経験を重ねたマネージャー資質の人は、あえて研究現場を離れ、研究行政側へとステップアップしていただいて、第二第三の若き山中教授を発掘することに心を配って欲しいなと思います。文科省の役人さんも人材のスカウトや事務局として大いに活躍していただきたいと思います。世代交代が起こりにくいことを上の世代から心配されることこそが最悪の状態だと思っています。(とくめい2 さん) . I-9 適正にあった配置転換の仕組みの導入B 学生が大学院に進学しなくなった原因としてポスドク問題が良くあげられますが、そもそも魅力のある授業や実習が出来る大学教員の数が少ないということはないでしょうか。質の低い大学教員には交代してもらう。そんなシステムは作れませんかね。文科省の問題ではなくて各大学の問題?今に始まった問題ではない?(とくめい さん) . I-10 研究者のインセンティブと評価の仕組みはどうあるべきか 現在の科学技術政策において、「研究者にインセンティブを与えることによって日本全体の研究レベルが向上する」ことが前提にされているように思います。しかし以下のTEDで紹介されているように「インセンティブ」の与え方によっては、研究者の内発的動機(創造性)が損なわれる危険があるように感じます。知的好奇心を満たすために邁進し、自分自身の発見が世界に共有されることに心が奮え、そのことに対して国に心から感謝できる研究者が一人でも増えるような政策ができることを願っています。 http://www.ted.com/talks/…(M.Tada さん)

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文科省について -文科省お役人への質問のまとめII-

q03

『ガチ議論企画その1:「文科省お役人への質問大募集」』では、文科省についてのコメントも沢山いただきました。研究職(研究者)から行政職(官僚)になるようなキャリアパスがあれば、行政機関は先端分野への対応力の強化などが図れるのでは?官僚にも(研究者のように)欧米型の流動的な雇用体制が導入されてもよいのでは?文科省の科学政策の意思決定は誰がどのように行っているか?などのご質問がありました。会合では、こうした文科省についての質問についても戦略室の方に直接お伺いし議論を行う予定です。頂いた回答については後日、独立した記事としてアップいたします。こちらでは頂いたご質問(下記参照)について皆様からのご意見を募集します。質問にはそれぞれ番号をつけておりますので、コメントを投稿いただく際には「II-3」など、質問の番号をお示しいただきますようお願いいたします。 このテーマについての皆様から寄せられた質問を以下にリストします。 . II-1 研究職から行政職へのキャリアパス 研究職から行政職へのキャリアパスが日本にはありません.現在は博士後期課程まで行けば行政職への道は事実上断たれます.形式的には国公一種試験に受かれば受け入れは可能ですが,現実には行政組織はそのような人材を拒絶する素地があるのではありませんか?  ますます高度化する科学技術に迅速に対応するには専門的知識と対応力を有した人材を外部から入れることで常に対応力をアップデートし,最先端の分野に適応する事が必要です.現在は学会からの人材を非常勤で使う事でやりくりしている訳ですが、米国でDOEやNIHのトップに最高の研究者を招いて活性化を図っています.我が国でも「本気で」やれる研究者の人材を行政組織内部に取り込む事で、強化を図る時期ではないでしょうか.(Shigeo Hayashi さん) . II-2 文科省官僚のキャリアパス 「40歳代以下のアカデミア」は他の業界に先駆けて日本型の終身雇用を廃して欧米型の雇用体制になったと思いますが、遅かれ早かれ殆どの職種が終身雇用ではなくなるでしょうし、そうならないと国は滅びると思います。最もそうなるべきなのは霞ヶ関だと思いますが、文科省をはじめ各省庁の皆さんは、ご自身のキャリアパスについていかがお考えなのでしょうか?研究者出身の文科省事務次官とかいてもいいと思いませんか?もっと流動性のある官庁であるべきだと思いませんか?(nemo さん) . II-3 文科省戦略室メンバーのキャリアとインセンティブ 斉藤卓也氏ほか戦略室のメンバーの皆さんがこれまでどのような法案や政策に関わったか、役人としての経歴を教えて下さい。よろしくお願いします。 (略)研究者のインセンティブについてのご意見がありますが、では官僚のインセンティブについてはどうなっているのでしょうか。具体的には、官僚はどういう数字によって業績評価されるのか、ということを教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。(M.Tada さん) . II-4 行政官の情報公開 真に日本やアカデミアのために実働された行政官を応援したいです。そのような方々こそ本省に残られ、給与、人事面において優遇されるべきと考えます。それが解るような情報を一定期間が過ぎたあと(政策上問題ない時期)に公開してもらえないでしょうか。その結果も含めての公開を希望します。(Miwako Ozaki さん) . II-5 科学技術政策の意思決定の問題A 文科省の生命系の科学政策の大筋は、誰がどこでどのように決めているのですか?「事実上」の決定権は誰にあるのですか?(shigeru kondo さん) . II-6 科学技術政策の意思決定の問題B 大学教員の年俸制案の話題ですが元ネタは産業競争力会議に提出された下村文部科学技術大臣の提出資料のようです. http://www.kantei.go.jp/…(*PDFファイル) 雑多な案がてんこもりですが大学で外国人を増やし,英語力と国際競争力を増す.それと同時に年俸制がパッケージになっています.この案を検討している教育再生実行会議は5月末には提言をまとめ総理に手交予定とあります(pptの12ページ目). 教育再生実行会議のメンバーはここ(http://www.kantei.go.jp/… 文科省の官僚も全能ではありません.このようなケースは文科省内部で議論があった事でしょうか?頭越しに振ってきた事かもしれませんね.上記プランの性急な実行は大学,教育を破壊する事につながります.戦略室が現場の意見を汲み上げる機能を果たしてもらいたいと思います.(Shigeo Hayashi さん) . II-7 文科省の役割 文部科学省って必要なんですか?他の役所と仕事内容がかぶっていて、省の存在価値が分からないのですが??たとえば科学技術・学術政策局、研究振興局、研究開発局の3局は学術会議の事務局でいいのでは?大学・研究機関において無駄な雑務や会議が増えた原因は、文科省などからの多大な事務作業依頼に起因しているかと思ってます。上部機関である文科省等がスリム化すれば、そういった事務作業依頼が減るのではないかと期待しています。(AD さん) .

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その他の問題 -文科省お役人への質問のまとめIII-

q02

今回、『ガチ議論企画その1:「文科省お役人への質問大募集」』にはご質問が沢山寄せられましたが、その内容は多義にわたりました。日本の科学は国際的に不平等な状況におかれているのではないか?研究リソースを効率的に活用するための拠点整備が必要ではないか?日本の研究者は雑用が多すぎるのではないか?などです。これらはそれぞれ大きく重要な問題ですが、こちらではスペースの都合上「その他の質問」として、ひとつの記事上でまとめさせていただきました。会合では、これらの問題についても戦略室の官僚の方と議論を行う予定です。頂いた回答については後日、独立した記事としてアップいたします。これと平行して、こちらでは頂いたご質問(下記参照)について皆様からのご意見を募集します。質問にはそれぞれ番号をつけておりますので、コメントを投稿いただく際には「II-3」など、質問の番号をお示しいただきますようお願いいたします。 以下に皆様からの質問を紹介します。 . III-1 日本の科学がおかれている国際的に不平等な状況 ある米国の有名PI(バイオ系)が言っていたことです。「日本から留学してきたポスドク(特に女性)にはCNSクラスの仕事を任せる。CNSに論文が載ればそのポスドクは帰国してアカポス取れる可能性が高まる。日本のポストでも引き続き留学中のテーマを持ち帰らせて実験させる。日本ではCNS持ちに研究費をたくさん出してくれるから、日本の研究費にフリーライドして研究成果を出せる。もちろんコレスポは渡さない。」本当にそういう事例があるか不明で、この米国PIの「個人的戦略」かもしれませんが、気になったのであえてここで紹介しました。MEXTとしての見解をお願いしたいです。(ATSUSHI TOYODA さん)  - – – これはある頻度であると思います。特にCNSに関しては。日本女性研究者は便利な存在と思われていることも。仮にコレスポを渡したとしても。女性というより日本人がこの戦略対象として使えると思われているように思います。いつも失礼な話と思いながら聞いていますが。(Miwako Ozaki さん)  - – – こちらの見解は重要です。日本に有力学術誌がなく、実質カネと情報を吸い取られている状況になっている点もあわせてみると、科学の植民地化が進んでいるとみるべきではないでしょうか。ぜひ政府で議論してください。(Akiyama さん) . III-2 研究リソースの効率化 次世代シーケンサーなどの「ハイスループット」機器は現在、初期投資と維持のコストの構造はひとつの研究室のような小集団で賄えません。少数台導入しても技術の進展が早くすぐに時代遅れになります。中国はBGI、米国はBroadと集約型の巨大研究所を立ちあげて牽引しています。全日本のハイスループット機器需要を一挙に引受ける「一個」の集約拠点を作り、十年のような長いスパンで人と機器を運営していくべきではないでしょうか?(Takashi Hamaji さん) . III-3 研究者の雑用問題 日本の研究者は無駄な雑務や会議に追われています。ゴミ箱一つの設置場所すら教授が会議で議論するという話を聞きます。研究者が関わる事務書類や委員会をまずは半分を目標に減らすよう各大学および日本学術振興会に通達を出して頂けませんでしょうか。(Tak さん) . III-4 古い縦割りの分野をどうするか 大学教員の公募をみてみると、非常に限定されたまた既存の分野に対する公募が多いです。新しい分野に対する間口が狭すぎないでしょうか? でも、これは大学の問題で、文科省の問題ではない?(YK さん) . III-5 大学の教養課程の必要性 大学の教養教育をなくし、卒業研究の開始時期を1年前倒しすべき。3年春から卒業研究を始められれば、企業も、教員も、学生自身も3年冬には卒業研究の進捗状況から学生の能力・適性を客観的に判断して進路を検討できる。学生の卒業研究に対する熱意も高まる。何より、技術立国の礎となる大学生の専門能力を確実に今以上に高めることができる。大学からは変えられません。文科省の強いリーダーシップに期待しています。(kaz さん) . III-6 科研費の応募資格 科研費の応募資格のことなのですが、任期付の場合、任期が応募を予定している研究期間に満たない場合は応募できないのですが、これってなんとかなりませんか? 例えば、科研費を獲得できた場合には任期を延長できるように人件費も支給することはできないものでしょうか。(Shigeru さん) . III-7 文部科学省の意図と、受け取る側のずれ 文部科学省で議されている政策が、JSTや大学に落ちると、ネジ曲がってしまうのはなぜでしょう?(橋本 昌隆 さん) . III-8 研究に関わる研究者以外の人材の育成や雇用について コメントにも多々あるように研究に伴う事務作業を研究者は無駄、雑用と切り捨てますが、本来公的予算の執行や資材の管理はプロフェッショナルが行うべき重要業務です。そういった分野のプロを育ててこなかったのは大学や大学院の責任でもあり、他人事ではないと思います。このような研究に関わる研究者以外の育成や雇用についてどのような展望があるのか、大学院政策の観点から伺いたいと思います。(Kouno さん) . III-9 研究への寄付 海外と日本で大きく違うのはドネーションベースの研究費の額です。アメリカにはHoward Hughes Medical Insitituteを始め、大きいものから小さいものまで多種多様な私的グラントが存在します。これは一般の国民が研究をサポートする事で社会に貢献するという、成熟した国の一つのかたちだと思います。日本でもこれをもっと導入すれば、研究費のほとんどが国家予算という現状を改善でき、研究費の使いやすさが格段に向上することでしょう。文科省は財務省と協力して、(小額であっても)研究費への寄付には大幅な税制控除を与えるような法整備を検討できませんでしょうか?(TK さん) . III-10 公正な科学技術のあり方 論文の不正事件が起こった時は大学や研究者の自浄作用に任せるのが文科省の方針のようですが、大学を解雇されて研究者コミュニティーから追放された人物が実在しない組織名を使って、不正が疑われる論文を発表していた場合はどの組織が対応すべきなのでしょうか? もしこの論文の内容が事実ならば、遺伝子組み換え人間を誕生させた組織が千葉県内に存在していることになります。 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23605829(reprogramming さん)  - – – *なお、このテーマでは、これまでにトピックとして、『監査局や研究公正局の設立の必要性』というご意見もいただいております。今後また「捏造特集」の際にさらに議論を行う予定です。 . III-11 もんじゅプロジェクトについて もんじゅプロジェクトは文科省が行っているということですが、もんじゅにはこれまで2兆円が投じられ、現在も維持のみに「一日当たり」5500万円相当のコストがかかっていると聞きます。高速増殖炉は米、英、仏、独いずれも撤退する中、一度たりとも成功せず不祥事だらけのもんじゅに巨額を投じ続けるのはまさに無駄ではないですか。このお金を多様な研究や学生に投じれば多くの問題が改善するでしょう。もんじゅの無駄についてご意見をうかがいたいと思います。(Yoshimura さん) .

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ガチ議論企画その1:「文科省お役人への質問大募集」

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文科省タスクフォース戦略室長の斎藤卓也さんからの投稿 “文部科学省「科学技術改革タスクフォース戦略室」の紹介” をいただいています。 このガチ議論サイトは、研究社会の諸問題がテーマですが、単なる愚痴に終わらないように関係諸機関に所属する人たちの参加を呼び掛け、意味のある(本当の改善につながるような)議論にしよう、という意図で立ち上げました。「タスクフォース戦略室」は、「外部の関係者との対話・ネットワークづくりを重視し、情報の共有と建設的な議論を進める」というのが目的ですので、こちらとはまさに相補的な関係にあります。うまく活用すれば、有益な何かが生まれるかもしれません。 実は、近いうちに、戦略室のメンバーとガチ議論スタッフとの間で、会合(飲み会?合コン?;東京近辺で、5月7・8日あたり)を持つ事になっており、その時に、いろいろ質問をぶつけて、彼らの本音を引き出せれば、と思います。と言うわけで、突然ではありますが、文科省のお役人に聞きたい質問を募集いたします。皆さん(私を含めて)、頭の固い文科省に対する文句はいつも山ほど言っているはず。この際、面と向かって問い質してみましょう。 どんな答えが返ってくるか? 楽しみじゃありませんか? 質問は、この記事への投稿欄へ書き込んでください。ただ、数が多すぎたり、質問自体が長すぎたりすると、質問しにくいし返答も難しいので、質問には以下のルールを守るようお願いします。 1)1人、質問は1項目のみ 2)質問事項は200字以内で明確に 例えば 「最近論文データの捏造が問題となっているが、研究費を出している文科省は、ある意味詐欺にあったも同然である。いまのところ、事件の調査は当事者の所属研究機関にまかされているが、これは、事件を起こした構成員を、その上司が調べていることになり、そのためか、長く時間がかかり、うやむやになってしまう危険が多い。今後、当事者の所属機関以外の専門機関が調査をする仕組みを作る意図はあるか?」 とか。 あと、皆さんに留意していただきたい事がいくつかあります。ここに書きこまれる皆さんの意見が、研究者全体の意見を集約したもので無いのと同じに、答えてくれる役人の方の意見も、役所の公式見解ではありません。極端な事を言えば「そう思っている人も居る」と言う事でしかないのですが、普段、木で鼻をくくったような公式発表しか目にしない我々からすれば、彼らが何を思っているのかが解るだけでも、非常に重要だと思います。とりあえず、対話が成立すれば、何かが始まるでしょう。質問の中で面白いものがあれば、そのご本人を会合に直接ご招待いたしますので、希望者は質問の末尾に“参加希望”と付け加えておいてください(Skypeでの参加も可能です)。 それでは、皆さん奮ってご投稿いただければ幸いです。 2013年分子生物学会年会長・近藤滋

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文部科学省「科学技術改革タスクフォース戦略室」の紹介

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文部科学省の斉藤卓也です。 このほど文部科学省に「科学技術改革タスクフォース戦略室」という新しい室が設置されましたのでご紹介します。一番下の記事をご覧ください。 もともと、昨年春に中堅職員による省内タスクフォースが「30年後の日本の将来像から導かれる今後の科学技術イノベーション政策」を検討したのがきっかけで設置されたものです。その報告の中で、「文部科学省の総合戦略立案機能が弱いので、横断事項を担当する戦略室を設置して機能を強化すべき」と提言し、その枠組みづくりを進めてきました。 外部の関係者との対話・ネットワークづくりを重視し、情報の共有と建設的な議論を進める方針としており、現在までに30を超える大学や研究開発法人、民間企業などへの訪問、意見交換を進めてきました。戦略室という受け皿ができましたので、今後ともやりとりを進めていきます。 戦略室の活動は、12月の日本分子生物学会年会で企画されている「生命科学研究を考えるガチ議論」の方向性、問題意識と連携できるものと思います。 今後とも、あるべき姿をめざして様々な方々との意見交換をしていきたいと思いますので、ご意見、ご提言をよろしくお願いします。 文部科学省 科学技術改革タスクフォース戦略室長 斉藤 卓也 (文部科学広報 平成25年2月号より) 平成25年1月、森口文部科学事務次官は、科学技術分野における政策立案機能を充実強化するため、大臣官房及び高等教育局、科学技術関係3局の中堅職員から構成される「科学技術改革タスクフォース戦略室」を設置し、戦略室員に辞令を手渡しました。 本戦略室では、中堅・若手職員による外部機関や省内の情報の共有や建設的な議論の促進、大局的な視点による俯瞰的な政策立案機能の強化、機動的な議論による意思決定の迅速化等を図っていくことを目指しています。 具体的には、予算や組織の基本方針や理想的な科学技術行政システム、国際戦略等について検討した施策案を政務三役や省内幹部に提案する予定です。 辞令の交付に当たり、森口次官は激励の言葉とともに、「文部科学省がどのようにあるべきか、所属するポストを超えた活発な議論と提案をお願いしたい」と述べました。

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監査局や研究公正局の設立の必要性 〜科学者の心と言葉を取り戻す為に〜

尾崎美和子先生

この10年あまり、アカデミアの不正経理[i, ii, iii, iv]、データ捏造[v, vi]は言うまでもなく、科学技術予算の配分、審査、評価の不公正性、利害対立や感情論からくる研究妨害、誹謗中傷等による人事妨害、雇用問題は、小手先の対応で一時的に凌ぐものの、悪化の一途をたどり、様々な側面においてモラルハザードが起きてきた。にもかかわらず、未だ、意思決定機関では、過去事例分析のもと事業運営上の具体的な策や詳細を論じることはなく、新たな制度を『新しい枠組み』として次々作り上げて行くことに忙しい。これでは、同じような失敗を繰り返すだけで、公的予算は有効に使われない。結果、改善案のつもりで新たな制度を導入しても、現場に近くなる程どんどんねじ曲がり、事態は更に悪い方向へと動く。これまでのシステム改革事業、トップダウン事業はその典型であり、2013年4月導入された無期雇用制度も制度設計上の甘さはいなめない。どの事業もその志、枠組み自体は大変よい。運用の仕方に大きな問題があるのだ。 多様性が重要と言いつつも審査委員、評価委員はいつも同じ、採択される研究者も委員会委員グループかその関係者(事業目的に合わせた専門性があまり考慮されていない)、報告書は実体のないものでも平気でとおる。調査、修正、訂正を求めても聞き入れられない。偽りの報告書に対し、評価委員会を設け評価し(もちろんここにも公費が費やされているだろう)、そこにSやA評価が下る。何のための事業であったのか、その目的が頻繁にぶれ、事後評価は『やったふりをしている』だけのことも多い。これは紛れもなく日本で起きている現実である。審査、評価がこのような状態では、科学者は、より良い評価を得る為に、研究予算を獲得するため、先ずは権力にすり寄ろうということになる。提案内容・その成果(事業目的によっては、必ずしもNature, Science等のビッグジャーナルに載せることが成果ではないが、成果内容がすり替えられて行く)は、真に審査・評価されておらず、結果として大多数の研究者は、提案内容の善し悪しに関わらず研究費を獲得することが難しくなっている。更に、特にモラルハザードをおこした研究代表のもとで実働した研究者(真の功績者である研究者)の成果は曖昧となり、実働したものが報われないのが今の日本の科学技術分野である。 人事でも、多くの場合、同じような仕組みの審査のもと雇用が決まっていく。そのため無期雇用制度も、詳細を詰めない限り、実働研究者にとってよい方向には働かないか、寧ろ悪用される可能性が高い(本来この制度は、働きの質の管理と一体となってこそ機能するものである)。科学技術分野では、大型プロジェクトの策定やその実施、参加者を決める審査者の選定、審査者による成果の評価など、すべてのレベルにおいて基準やルール等を詳細に決める必要性がある。このことは、行政にもアカデミア意思決定機関にも提案として上がっており、彼等は気づいている。しかし、必須な議論を避けてきているのだ。 日本には上記のような問題が起きた場合、訴える場所がない。公益監査室等色々窓口を設けていることになっているが、個人の利益は必ずと言ってよい程守られていない。何故このようなことが起きるのか、そのすべての問題の根源がどこにあるのかと考えた場合、ソサイアティをリードするものの行動規範が大きく崩れてきたことにあるのではないかと考える。ごく一部の研究者が研究者全体の印象を悪くしている可能性もないではないが、それにしても不正行為や科学者としての誠実性を欠く行為が多過ぎる。『科学者としての言葉』で語るより、予算獲得のために何かにすり寄るか、流れに任せた発言を誰もが同じ言葉を使って説明する(金太郎あめのようだ)。長きに渡り、多くの物事が仲間内で議論・決定されてきたことにより『適当でも許される』『議論したくないことは避けて通る』ことが当たり前のようになったのではないか(それに逆らうことこそ、問題行為、トラブルメーカといった安易な認識しかもたれなくなったのではないだろうか)。 このような日本の問題は、国際化(研究者の国際交流&国際共同研究)が進むにつれ、日本からではなく、海外から問題提起をされることとなった。それが2009年、2010年におよぶシンガポール宣言だ。特に宣言が世界指針として取り上げられたのは、2010年シンガポールで開催された第2回研究公正に関する世界会議(World Conference on Research Integrity)だ。51カ国が参加し、捏造、改ざん、盗用だけでなく研究者としてあるべき態度にまでフォーカスされた。寧ろ研究者としての結果に対する責任や誠実性の重要さを訴えている(文末参考資料の宣言骨子参照)。 多くの国が同意する宣言を順守することは、利害関係があるもの同士間では難しい。また、上記項目において問題が起きた場合、その問題が大きくなる前に速やかに取り上げ、調査や仲裁に入る組織があってこそ宣言の実行は可能となる。その役割を担う機関が監査局(Office of the Inspector General, OIG)や研究公正局(Office of Research Integrity, ORI)あるいはそれに相当する利害関係から独立した第3機関である。これら組織は、シンガポール宣言骨子(参考資料参照)にあるような項目を管轄し、ソサイアティの倫理観を高め、研究者個人の利益を守るためのものである。このような組織は、科学技術先進国である米国、EU諸国、シンガポールに存在する。アジア地域では、世界の研究支援機関(Funding Agency)が協議する枠組みとしてGlobal Research Councilの一部として纏めて設置するか、各国内設置の方向で議論が高まっている。審査&評価をできるだけ客観的・多面的に実施する手法は多種ある。日本国内でよく聞く、研究者の自主的な倫理観に任せるべきだ等の精神論を議論する時期はとうに過ぎている。シンガポール宣言に、51カ国が同意しているということは、これらが科学者の行動規範の国際標準となっていくと考えてもよい。その後も科学者の行動規範に関しては、議論が重ねられ、2012年12月7日には、責任ある研究行動に関する仙台宣言にまで至り[vii]、アジア・太平洋地域から13カ国の参加があった。日本学術振興会がこの取り纏めを行った[viii]。これら宣言は、日本の研究者にも宣言内容を順守してもらいたいという期待を込め発布されている(寧ろ日本をターゲットにこれら宣言は作成されたといっても過言ではない)。責任項目11、12では、科学者としての行動規範を逸脱したものは記録として残され、迅速な措置がとられるわけだが、これは独立した機関であるからこそ、できることである。 シンガポール宣言原則にあるような内容を順守するためには、科学技術分野全体を俯瞰し、健全な運用を促す、監査局(OIG)や研究公正局(ORI)あるいはそれに相当する利害関係から独立した第3機関の存在が必須である。そこには、どの団体からも均等な距離が保て、職業的責任、地位としての責任という言葉の意味、重みが理解できる人材が配置されるべきであり、同時に、組織の役割が骨抜きにならない仕組みが兼ね備えられることが絶対条件である。 Asia Medical Center Singapore, President 尾崎 美和子 (この意見は筆者が所属する組織の意見を反映しているものではありません) 参考資料 – シンガポール宣言骨子 – 序文: 研究の価値および利益は研究公正に大きく左右される。研究を組織・実施する方法は国家的相違および学問的相違が存在する、あるいは存在しうるが、同時に、実施される場所にかかわらず研究公正の基盤となる原則および職業的責任が存在する。 原則: 研究全ての側面における誠実性 研究実施における説明責任 他者との協動における専門家としての礼儀および公平性 他者の代表としての研究の適切な管理 責任の項目としては以下のような12項目に及ぶ。 1. 公正:研究者は、研究の信頼性に対する責任を負わなければならない。 2. 規則の順守:研究者は、研究に関連する規則および方針を認識かつ順守しなければならない。 3. 研究方法:研究者は、適切な研究方法を採用し、エビデンスの批判的解析に基づき結論を導き、研究結果および解釈を完全かつ客観的に報告しなければならない。 4. 研究記録:研究者は、すべての研究の明確かつ正確な記録を、他者がその研究を検証および再現できる方法で保持しなければならない。 5. 研究結果:研究者は、優先権および所有権を確立する機会を得ると同時に、データおよび結果を公然かつ迅速に共有しなければならない。 6. オーサーシップ:研究者は、すべての出版物への寄稿、資金申請、報告書、研究に関するその他の表現物に対して責任を持たなければならない。著者一覧には、すべての著者および該当するオーサーシップ基準を満たす著者のみを含めなければならない。 7. 出版物における謝辞:研究者は、執筆者、資金提供者、スポンサーおよびその他をはじめとして、研究に多大な貢献を示したが、オーサーシップ基準を満たない者の氏名および役割に対して、出版物上に謝意を表明しなければならない。 8. ピアレビュー:研究者は、他者の研究をレビューする場合、公平、迅速、厳格な評価を実施し、守秘義務を順守しなければならない。 9. 利害対立の開示:研究者は、研究の提案、出版物、パブリック・コミュニケーション、およびすべてのレビュー活動における成果の信頼性を損なう可能性のある利害の金銭的対立およびその他の対立を開示しなければならない。 10. パブリップコメント・コミュニケーション:専門的コメントと個人的な見解に基づく意見を明確に区別しなければならない。 11. 無責任な研究行為の報告:研究者は、捏造、改ざん、または盗用をはじめとした不正行為が疑われるすべての研究、および、不注意、不適切な著者一覧、矛盾するデータの報告を怠る、または誤解を招く分析方法の使用など、研究の信頼性を損なうその他の無責任な研究行為を関係機関に報告しなければならない。 12. 無責任な研究行為の対応:研究施設、出版誌、専門組織および研究に関与する機関は、不正行為およびその他の無責任な研究行為の申し立てに応じ、善意で当該行動を報告する者を保護する手段を持たなければならない。不正行為およびその他の無責任な研究行為が確認された場合は、研究記録の修正を含め、迅速に適切な措置を取らなければならない。 日本学術会議主催、日本学術振興会共催・学術フォーラム「責任ある研究活動」の実現にむけて(2013年 2月19日)の資料(PDF)より一部抜粋 その他参考資料 i. 日本経済新聞, 研究費規定を見直し、罰則を強化 文科相, 2013年2月8日 ii. 読売新聞, 「預け金」判明 北大 研究停滞の懸念, 2013年1月13日 iii. Medical Confidential, 集中出版社,「国立がん研究センター」研究費プール問題の深淵, 2013年4月1日 iv. 文部科学省, 公的研究費の管理・監査に関する研修会 説明資料(PDF) v. Japan fails to settle university dispute, Nature, (2012) 483, 259 vi. A record made to be [...]

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海外日本人研究者ネットワークを作りました

20130402

私たちは海外各都市にある日本人研究者コミュニティの連合、海外日本人研究者ネットワーク United Japanese researchers Abroad (UJA) を昨年末に立ち上げ、お世話させていただいているものです。 私たちがUJAを立ち上げたのは海外の日本人研究者同士の大規模かつ有機的な結びつきからお互いの研究キャリアを高めあい、さらに究極的には日本の科学技術の未来を明るくしていく、そのためのアクションを起こしていきたいと考えたからです。個人としてまた日本国家としてグローバル競争を勝ち抜くことを考えたとき、日本人であることを生かした広範で戦略的なネットワーキングは不可欠だと、海外に身をおいて強く感じるようになりました。海外の各地域には日本人研究者による自主的な勉強会組織がありますが、地域を超えた大規模な活動は無く、また主催者が異動等で代わると自然消滅することもしばしばです。また全体としていったいどれだけの日本人研究者が海外で研究に従事しているのか、いかなる機関も把握していないようです。 そういったなかで昨年の2012年10月に日本学術振興会ワシントンオフィスのサポートのもと、米国東海岸各地の勉強会の幹事が一堂に会する機会を得まして、それぞれの抱える問題意識などの意見交換から地域間連携の機運が芽生えました。その後、本業の研究の合間を縫って連絡を取り合いながら上記のUJA発足に至りました。現在では主に米国・東海岸の以下の地域コミュニティから参加者を得ておりますが、やがては全米から海外全域へと広げ、またコミュニティ単位だけでなく個人単位でも参加できるよう体制を整えたいと思っています。 現在の参加コミュニティ: .ボストン「いざよいの夕べ勉強会」(Harvard/MIT他) .NIH金曜会 .ニューヨーク日本人研究者勉強会(Columbia他) .フィラデルフィア日本人研究者勉強会 .ボルチモア日本人研究会(Japanese Science Seminar in Baltimore: JSSB) .シンシナティー「UC-Tomorrow」 .リッチモンド「J-RAV (Japanese Research Association at VCU)」 .セントルイス Donald Danforth Plant Science Center .NASA Goddard Space Flight Center .南カリフォルニア「Socal日本人大学院生会」 この3月21日にも再び日本学術振興会ワシントンオフィスに集まりまして、具体的なUJAの活動方針や運営方法、また日本学術振興会ワシントンオフィスから運営をサポート頂く旨を確認しました。現在のところまだ準備段階ではありますが主に下記の4つのミッションを遂行していきたいと思っています。 1. 留学希望者のための窓口的役割 2. 帰国支援および海外で研究を続けるためのネットワーク提供 3. 海外コミュニティの研究交流などの有機的な連携 4. 科学技術行政機関とのコミュニケーション 今回の分子生物学会年会での新しい企画「海外ポスドク呼び寄せ」「生命科学研究を考えるガチ議論」などは、日本の科学研究が一つの岐路に差し掛かっていることへの強い危機意識が背景にあるのかと思います。日本を取り巻く環境は厳しくなる中において科学研究でリーダーシップを発揮していく為には、国際感覚豊かな人材を養成・確保する必要があります。その一方で、現場の若い人たちは目の前のキャリアに不安を抱き、特に先の見通しが不確かな留学をためらうというのが現状でしょうか。私どものミッションはこのような問題へのアプローチとして合致するところが多く、何より我々の立場だからこそ出来ることも多いのではないかと思いました。日本分子生物学会は生命科学系学会として最大規模であり、とりわけ大学院生・ポスドク世代が多く参加しますので、この分野での留学に関するホットでリアルタイムの情報を提供することには大きなニーズがあるのではと考え、具体的な提案としまして以下のようなアイデアを持っております。 1. 留学相談コーナーのブースを設けさせて頂き、以下のような活動を行う ・留学希望者への情報提供 ・日本人ポスドクを募集しているラボの紹介 ・海外ポスドクのための就職面接のような機会を設ける 2. Funding agencyとの議論に参加させて頂き、海外での経験、海外からの視点を含めて議論を深める 3. 留学経験者を対象とした大規模アンケートを実施し、研究留学の実態を紹介する 4. 大規模アンケート結果を元に、実態に則したより良い頭脳循環システムの在り方を議論・提案する 上記のアイデアはまだ骨組みの段階で、これから皆さんの意見を伺いながら肉付けを進めてまいります。いざ実行するとなれば多くの方の協力が必要となりますのでその時はどうかよろしくお願いします。またこの他にもアイディアがありましたら是非検討させていただきたいと思っておりますのでこのサイト上やEメールにてご提案頂けますと幸いです。 United Japanese researchers Abroad (UJA) 世話人 分子生物学会年会担当:西田敬二、黒田垂歩 e-mail: Unijdocs[アットマーク]gmail.com UJAの活動内容を紹介した資料(スライド形式)がダウンロードできます。 海外日本人研究者ネットワークUJA活動内容紹介.pdf

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労働契約法改正は朗報か

20130401

労働契約法改正は科学者コミュニティにどのような影響をあたえるか  2012年8月に労働契約法が改正され、2013年4月から施行された[i]。法改正で最も重要な点は、有期労働契約が5年繰り返され、通算5年を超えた場合、労働者の申し込みにより期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるというものである(第十八条)。これがいわゆる「5年ルール」と呼ばれるものだ。この改正をめぐって、研究現場が混乱している。ここで簡単ではあるが、現状をまとめてみたい。  なお、私は法律の知識が乏しいので、間違い等あればご指摘いただきたい。 1)法改正に対する政府の対応  現在かなりの割合の研究者が、有期労働契約で働いている。ポスト・ドクトラル・フェロー(ポスドク)は言うまでもなく、任期のついた大学教員や研究所の職に就いている者も多い。また、研究支援者(テクニシャン、研究室秘書など)も多くが有期労働契約で働いている。ティーチング・アシスタント(TA)やリサーチ・アシスタント(RA)も労働契約であり、大学院生時代に長期間TA、RAを行ったら、ポスドクなどになり同じ機関で雇用されたら、わずかな期間で無期転換の申し出の権利を有してしまう。このように、今回の法改正の対象になる研究者は多い。  しかし、この改正が閣議決定されるまで、今回の法改正が科学コミュニティにどのような影響を与えるか議論がなされてこなかった。当時の政治的な状況により、この法改正が可決されるとは思われていなかったからだという声も聞くが、法改正が検討された厚生労働省の検討会においても、研究者に与える影響についての指摘はなかったようである[ii]。また、文部科学省も今回の法改正が大学教員などに与える影響について、事前に検討していなかったようだ  政府に対し最初に問題点を指摘したのは、京都大学の山中伸弥教授のようである[iii]。山中教授は2012年3月、当時の古川科学技術担当大臣と面会した際に、法改正が行われると、有期労働契約で雇用してきた研究支援者などの雇用が維持できなくなると懸念を表明したという。  それと前後して、一部の研究者の間から懸念の声があがった[iv]。主に大学教授から、山中教授と同様に、この法律が大学に適応されたら、有期労働契約で雇用している研究者や研究支援者を、5年で「雇止め」せざるをえないというのである。  一方、主に若手を中心とする研究者からは、有期労働契約で長期間雇用しているのなら、それは無期労働契約すべき人材なのではないか、なぜ無期労働契約にできないのか、若手研究者などが有期労働契約で不安定な職に就かざるを得ない状況をつくり出した状況に目をつむってきて、いまさら騒ぐとは何事か、という反発の声もあがった。  こうしたなか、2012年4月に開催された「科学技術政策担当大臣等政務三役と総合科学技術会議有識者議員との会合」で労働契約法改正の問題が取り上げられ、関係者から意見を聴取した[v]。そのひとりとして私も招集されたのだが、ようやくその場で、この法改正が問題であることがひろく認識されることとなった。その後総合科学技術会議は、同年5月に「労働契約法の改正案について」という取りまとめを発表した[vi]。このなかで、「労働契約の内容の改善と合理性のない雇止めの防止」「研究補助者の雇用の安定化」「研究者等の雇用管理の在り方の見直し」「研究者の雇用における流動性の確保」の4点が取り組むべき課題とされた。  これらを受けて、内閣府では、平成24 年度科学技術戦略推進費を用い、海外の大学・研究機関における教員・研究者の雇用形態に関する調査を行った[vii](2013年3月まで)。労働契約法がEUの労働法制をモデルにしていることから、主にヨーロッパで研究者や教員がどのように雇用しているのかを調査し、「本調査結果を踏まえた検討を科学技術イノベーション政策推進専門調査会基礎研究・人材育成部会で行った上で、効果的・効率的な教員・研究者の雇用形態の在り方について関係省庁に情報提供、助言を行い、大きな方向性を共有していく」という。私もこの調査に関する検討委員会委員に就任し、議論に参加したが、各省庁や政府機関などから関係者がオブザーバー参加しており、関心の高さがうかがわれた。  なお、調査結果についてはまだまとまったばかりであり、機会があれば別にご紹介したい。  こうして問題が認識されるに従い、法改正の悪影響を指摘する声も増えている[viii, ix]。しかし、そうこうしているうちに、2013年4月を迎えてしまった。 2)何が問題なのか  この法改正の趣旨は、「働く方が安心して働き続けることができるようにするため(厚生労働省ホームページより)」であったが、なぜ逆に「雇止め」の危機が叫ばれるような混乱が生じているのか。以下に問題点をまとめたい。不正確な点などがあったらご指摘いただきたい。  一つは、たとえ望んだとしても、常勤雇用の研究者や研究補助者を増やせないという現状がある[x]。国立大学法人は自前の資産を持たないため、職員の雇用に関しては、国立大学時代の定員である「承継定員」に対して退職金が運営費交付金から支払われる[xi]。よって、退職金をどこから捻出するかという問題が発生するために、「継承定員」外の常勤職員を新規雇用することは困難であるという。運営費交付金が年1%ずつ減額されているのも大きな問題だ。 このため、「継承定員」より定員を増やしたいときは、外部資金、すなわち研究者や機関が取得するプロジェクト型研究費などに依存せざるを得ない。外部資金は安定的なものではなく、プロジェクト終了等に引き続き、別の資金を獲得することができない場合、その資金で雇用されていた職員を継続して雇えない可能性が出てくる。 山中教授をはじめ、大学教授が改正労働契約法に懸念を示すのは、資金が枯渇した場合を想定しているものと考える。継続勤務により無期雇用に転換したにもかかわらず、給料を払うめどが立たなくなった場合にどうするのか。 無期雇用に転換したのちに資金がなくなったとしても、簡単には解雇できないし[xii]、訴訟が起こるリスクもある。大学が5年継続雇用になる前に「雇止め」を行おうとするのは、このリスクを回避しようとしているためではないかと考えられる。 二つ目は、この法改正の解釈が専門家間で異なっていることである。 ある弁護士は、大学の講師等5年任期制等(特殊契約)の再契約について、「これらの職は学校教育法上のものであり、労働者の雇用上の権利といったものではないため、5年を超えて再任用されたからといって、任期を定めた任用は、職ごとに行うものとされているので、無期転換できるものではありません。」と述べる[xiii]。 別の弁護士は、リサーチ・アシスタント(RA)を行って給料を払われた経験がある大学院生が、大学院修了後に同じ研究室でポスドクになった場合、雇用の継続性はなく、「新しい契約としてみるのが妥当ではないか」と述べる。また、非常勤講師については、「どちらかというと雇用契約にはあたらないため、労働契約法は適用されないという判断が予想されます」と述べる[xiv]。  しかし、現実問題として、非常勤講師は雇用契約にあたると考えられているようで、一部の大学で非常勤講師などに、5年を超える継続雇用ができないことを前提にする就業規則を制定しようとしている[xv]。無期雇用に転換する方針を示した大学や[xvi]、こうした就業規則制定方針を撤回する大学もあるが[xvii]、大学の対応が混乱している印象がある。多くの大学は、他大学等の動向を伺っているようだ。  また、今回の改正は2013年4月1日以降の雇用契約に対し適応されるのにもかかわらず、既に数年雇用しているということで、大学当局から技術補佐員の雇用契約を今年いっぱいで打ち切れと指示された教員もいる(私信)。ほかにも、今回の法改正では6ヶ月の「クーリング期間」があれば継続年限のカウントがリセットされる(継続6年ではなく、あらたに1年目からはじまる)ので、それを利用して、6ヶ月以上雇用契約を結ばないようにして、実質継続雇用を行う方針を考慮している研究機関もあるという(私信)。その6ヶ月間は、研究室に無給で所属し研究を行うことになるが、履歴書に空白ができてしまい、その後の就職活動に不利になるのではないかと懸念する声を聞く。  三点目にあげたいのが、「無期契約」の意味である。無期契約は終身雇用とは違うとも言われる。期間の定めがないだけであって(open ended)、たとえば研究費が切れたなどの事情で契約を終了することができるという意見もある。  こうした曖昧な点は、判例を重ねるしかないが、そうなると訴訟が多発することになる。  また、改正労働契約法では、労働条件は有期契約時と同一の労働条件であるとされている。つまり、契約期間が無期になっただけということになる。無期転換されても、低い賃金が引き継がれるということもありうる。無期になる分ローンが組める、精神的に安定するなどプラス面もあり、議論は分かれるところではある。 3)どうすればよいか  こうした混乱のなか、研究者の懸念は強まっている。こうした事態にどのように対処すればよいだろうか。論点を整理したい。  この問題は、日本の研究がどうあるべきか、という問題と密接に関わる。  研究者の任期制は、研究者の流動性を高め、競争を促し、研究生産性を高めるという目的で導入されている。もちろん、あまりに不安定だと短期的に成果の出る研究しかしなくなるといった「副作用」があり、各国とも競争と安定のバランスに腐心しているのが現状ではあるが(テニュア・トラックはその一例)、その中で今回の労働契約法改正をどう取り扱うべきか。  諸外国では、ドイツでは、一般の労働法制のほかに、研究者に適応する学問有期契約法という法律がある。この法律では、研究者の有期雇用は12年(医学生は15年)までとされている[xviii]。ドイツの場合、博士課程も労働契約で考えられている点は留意が必要だが、研究者の資質を見極めるためには、ある程度の期間は有期契約が必要という考えだろう。韓国では、2年という短期間の連続有期契約で無期労働契約に転換できるが、大学や研究機関の研究者は適応が除外されている[xix]。  諸外国では、一般の法が研究者にも適応されている。イギリスでは、アバディーン大学のボール博士の訴訟で、外部資金で雇用されていることを理由に無期雇用に転換できないのは違法であるとの判決が出てから、研究者も無期雇用に転換できることになっている[xx]。ただ、イギリスでは日本より解雇規制がゆるく、ルールに従えば無期雇用の人も解雇できるという。   解雇規制がよりゆるいアメリカは参考にはできないが、そのアメリカでテニュア・トラック制が導入されているということは、研究者の競争と安定を考える上で示唆的だ。  こうした状況のなか、日本はどの道をとるのか。労働契約法第十八条を、大学や研究機関に対して適応除外にするべきなのか。研究者は業務委託にして、労働契約ではなくすのか[xxi]。 また、研究者と研究支援者は分けて考えるべきという意見は多い。山中伸弥教授も、研究支援者の安定雇用を訴えると同時に、研究者は競争的であるべきだと述べている[xxii]。これも日本の研究システムをどのようにデザインすべきかという問題に関わる。  いずれにせよ、この混乱状況を改善するために、政府が何らかの指針を出すべきだろう。国立大学法人の「継承定員」外の無期雇用が可能なのか、RAやTAはどう考えるのか、競争的資金が取れなかったことでの解雇は許されるのか。研究支援者、補助者の安定雇用をどう実現すべきか。  そして、忘れてはならないのは、キャリア形成という視点だ。EUには「The European Charter for Researchers[xxiii]」や「The Code of Conduct[xxiv]」があり、研究者のキャリア開発をすべきとしている[xxv]。日本では、ポスドク(大学院生も)をいわば「労働力」として使い、キャリア形成という視点を持つPIは多くない印象だ[xxvi]。それでは人材の使い捨てと言われても仕方ないだろう。  文部科学省は「文部科学省の公的研究費により雇用される 若手の博士研究員の多様なキャリアパスの支援に関する基本方針 ~雇用する公的研究機関や研究代表者に求められること~[xxvii]」を公表し、PIにキャリア支援を求めている。研究者の意識改革も必要だ。 4)最後に  労働契約法の改正は科学コミュニティに大きな影響を与える。とはいうものの、多くの問題は以前から未解決のままあり、この改正によって問題が顕在化したにすぎないといえる。  流動性と安定雇用をどうバランスをとるか、というのは、研究者だけの問題ではない。雇止めといった事態は他の業界でも起きている[xxviii]。研究者も他の業界も含めた社会の動向について関心をはらう必要があるだろう。  この法改正を、日本の研究システムはどうあるべきか、そして、社会の生産性を高め、かつ働きやすいしくみつくりについて、科学コミュニティにとどまらない広い視点で考えるきっかけとしたい。 近畿大学医学部講師* サイエンス・サポート・アソシエーション代表 榎木英介 (*この意見は筆者が所属する組織の意見を反映しているものではありません) i. 労働契約法の改正について~有期労働契約の新しいルールができました~  http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/ ii. 労働政策審議会労働条件分科会で議論が行われていたようである。  http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000008f5z.html#shingi3 第99回労働政策審議会労働条件分科会資料  http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001z63l.html  にて「労働契約法の一部を改正する法律案要綱」について(諮問)が公開されている。 iii. http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/120419giji.pdf iv. 有期雇用5年超で無期雇用転換を義務付ける労働契約法改正案が  研究者コミュニティーに与える影響について  http://togetter.com/li/277188 v. 科学技術政策担当大臣等政務三役と総合科学技術会議有識者議員との  会合議事次第 平成24年4月19日  http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20120419.html vi. 労働契約法の改正案について 総合科学技術会議有識者議員 平成24年5月31日  http://www8.cao.go.jp/cstp/output/20120531_roudoukeiyaku.pdf vii. 平成24 年度 科学技術戦略推進費「総合科学技術会議における政策立案のための調査」  に係る実施方針 平成24年8月30日 総合科学技術会議  http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20120830/siryosi-1_revice.pdf viii. 太田哲郎 改正労働契約法「5年で無期」が大学教育に及ぼす影響  http://agora-web.jp/archives/1518728.html ix. 西田亮介 改正労働契約法が博士院生・若手研究者に及ぼす(少なくない)影響  http://blogos.com/article/52631/ x. 本当に増やせないのか検討されているか不明ではあるが xi. http://www.zam.go.jp/n00/pdf/ne003002.pdf xii. 解雇が認められるとの解釈もある  http://www5.ocn.ne.jp/~union-mu/1112_12.pdf xiii. 安西愈 雇用法改正 人事・労務はこう変わる (日経文庫) 2012年 xiv. 坂本正幸 改正労働契約法は大学にどのような影響をあたえるか  http://article.researchmap.jp/qanda/2012/12_01 xv. 第183回国会 参議院予算委員会 第5回 田村智子議員(共産) 2013年2月21日 [...]

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iPS細胞の研究に関する大誤報を目の当たりにして感じたこと

20130329d

山中伸弥博士がiPS細胞の研究でノーベル賞を受賞して日本中が興奮したのも束の間、ハーバード大学の日本人研究者を騙る人間がiPS細胞に関する研究で大きな問題を起こしてしまいました。まずは簡単に経緯を紹介します。 今月11日のY新聞の朝刊一面で、ハーバード大学の客員講師を名乗る日本人研究者(日本人医師)が米国マサチューセッツ総合病院において iPS細胞を使った臨床応用に初めて成功した、と大々的に報じられます。その後、Y新聞のネット版でも続報が出され、写真付きのインタビュー記事がネットで出始めます。S新聞など一部の新聞社も、このY新聞のスクープ記事に続いて、iPS細胞を使った初の臨床試験(患者の経過も順調とされた)が日本人によって行われたと好意的な表現で報じられました。 そして、それらニュース記事をもとに、テレビでも件の人物のインタビュー映像などが放映され始めます。情報番組などでは、日本のお役所的な対応のせいで日本のiPS研究は米国より遅れているのだと、日本の行政を批判する風潮が見受けられました。その際、米国ではメリットがリスクを上回ればゴーサインが出る、などとして説明され、今回の臨床試験は「暫定承認」といった特別な措置のもとで行われたと米国側の対応の柔軟な姿勢を支持する報道が行 われました。 しかし同日、一部新聞が今回の臨床試験の科学的問題点に触れ始めるようになり、その後にハーバード大学とマサチューセッツ総合病院が異例 とも言える公式声明を出し、件の自称ハーバード大学の客員講師なる人物は自分たちとは全く関係がなく、iPS細胞を使ったとされる臨床試験の承認を全面否定しました(10年ほど前に1ヶ月ほど在籍していたことは認める)。それと前後して、ロックフェラー大学での学会で発表することになっていたポスターが学会側の判断(内容に疑義がある)で撤去されたという報道が出ました。 このような事実が発覚した結果、マスコミの報道姿勢が一気に「快挙」から「疑義」へと移り変わり、はじめにスクープしたY新聞も遂に誤報である可能性を認めることになりました。また、誤報であるということが確定しつつある中、東京大がこっそりと彼が在籍していたとされるWebサイト上の記録を消去したり、現在在籍しているとされる東京医科歯科大学が謝罪会見を開くなど、この人物を巡る影響が色々な方向へと広がっていきました。 しかし本人は、こういった状況下でもテレビ等のインタビューに応じており、はじめはハーバード大学側に間違いがある等の強気な姿勢を見せていました。しかし、徐々にトーンが下がり、今では「自分のやってきたことが思い違いだったかもしれない」などと語るようになりました。さらには、この人物が、医師としての資格を持っていなかった等の驚くべき事実も明らかとなり、そもそも全てが本人の妄想であったという可能性も囁かれるようになりました。 この問題の最悪なケースとして想定されるのは、医師でもない人間が許可なく患者にiPS細胞を投与したことが事実であったと確認できてしま うことです。その場合、「日本人」が米国でも有数の病院であるマサチューセッツ総合病院および世界的にも有名なハーバード大学の権威を失墜させます。この 業界において、医師でもない人間が何の承認もなく安全性が確保されていない治療行為を行うのは大問題です。この場合、仮に関与を否定したとしても、マサチューセッツ総合病院ならびにハーバード大学にも責任は大いにあります。また、ノーベル賞を受賞したことで臨床応用に一気に進むことが期待されたiPS細胞に対しても、周囲の見る目が厳しくなり、今後の臨床試験へのハードル今以上に高くなるはずです。そして、その結果として臨床応用への道が遠ざかる可能性が出てきます。 ただし、これまでの経緯を見る限りでは、今回使われたとされるiPS細胞は山中博士とは違う方法で作製したとのことなので、実際にこの細胞 が多様性を持っていたかどうかも怪しいと思われます。しかも、臨床試験そのものが行われていない可能性もかなり高く、全てが「でっち上げ」であるのではないかと自分と私の周りの研究者仲間は考えています。 今回、たったの二日足らずで世紀の大スクープが大誤報であると判明したのですが、調査不足でスクープ記事を打ったY新聞の責任は重大です。 Y新聞はこの人物の研究成果(おそらくそちらも科学的には証明されていない)を数年前から何度か報じていることが確認されています。しかし、研究者でなくとも、この人物の発言等の矛盾点は少し調べればわかることです。その基本的な裏付けすらせずに大スクープとしてニュース記事にした結果、iPS細胞の研究 の将来性を損ねるだけでなく、医学業界での日本人の評判を落とす事になりかねなかったのです(既に影響が出ている恐れは充分にあります)。 Y新聞が少しでも科学的に物事を判断することが出来てさえいれば、今回のは単なる自称「ハーバード大学のお医者さん」の妄想で終わっただけだったのだと思うと、今回の大誤報はiPS細胞の研究に関わる身としては本当に残念に思います。 執筆者:iPS細胞の未来を信じる者 BioMedサーカス.com・オピニオンより執筆者の許可を得て転載させていただきました。 予告:近日中に、捏造関連企画、行います。

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ある学生の疑問~学術雑誌のシステムについて~

hendatoomoimasenka

博士課程の学生です。私みたいな未熟な研究者(の卵?)が、このような場所に寄稿しても良いのか悩んだのですが、これから研究者を目指す自分にとって、この業界について非常に疑問に思っている点があったので文章にまとめてみました。 いつもは自分が読む側であったウェブサイトに自分が書いた文章が掲載されるので、少し緊張しながらこの文章を書いています。このオピニオンのコーナーは、掲載された記事だけでなくTwitter上で様々な人の意見を見られるのがとても楽しいので、批判コメントも含めて私の疑問に色々な人に答えてもらえればいいなと思っています。 私は本名でTwitterをやっていますが、自分のTwitterアカウントで今回の疑問を出して見ず知らずの人に叩かれたりすると凹んでしまうので、今回はペンネームを使わせてもらっています。ネット上で匿名での活動は好ましくないと思う人がいるのは重々承知しておりますが、どうぞご容赦ください。 さて、私の疑問ですが、それはズバリ論文の投稿料・掲載料に関してです。 私が学部4回生で研究室に配属になったばかりの頃、先生や先輩たちが研究論文を雑誌に掲載させているのを見て、研究者として尊敬+憧れの感情を持つとともに、印税(もしくはそのようなもの)をもらってるんだろうなぁと思って自分も頑張ろうと思っていました。でも、お金のことを聞くのはその頃の自分にとっては難しかったので、具体的にいくらもらえるのかとかは聞きませんでした。でも、飲み会のときとかに、先生におごってもらったり先輩が少し多めに出すのを見て、たくさん論文を出してるからたくさんお金をもらってるんだろうなぁと少し羨ましく思った記憶があります。 その後、博士課程に進む決意をして博士課程への進学が確定したときに、いつも面倒を見てくれていた准教授の先生に思い切って質問をしてみました。そのときにどんな言葉で質問したかは覚えていませんが、「論文を出すといくらくらいもらえるんですか」とか「やっぱり良い雑誌の方が原稿料も良いんですか?」とかと聞いたと思います。自分の質問の言葉はあまり覚えていませんが、その答えは今もはっきりと一言一句覚えています。先生は「逆逆。こっちが払うんだよ。論文を出せば出すだけ貧乏になるんだよ。面白い世界だろ。」とやや自嘲気味に笑って答えてくれました。 私はその答えを聞いて頭が完全に混乱しました。その後にネットや書籍などで色々と調べて、学術論文に印税のようなものはないこと(依頼された総説論文には稀に謝礼が支払われることがある)、ランクの高い雑誌やオンライン雑誌には掲載料(20万円以上も珍しくない)がかかること、更に一部の雑誌には掲載料だけでなく投稿するためにお金がかかること(論文がリジェクトされても投稿料は戻ってこない)、などがわかりました。 でも、これっておかしくないですか?私たちの論文を掲載している雑誌は、その雑誌を購読してもらうことで収益を得ているわけですよね。言ってみれば、雑誌の中身(コンテンツ)は商品なわけです。それなのに、商品を仕入れるのに、お金を払わずに逆にお金をもらっているということになるんです。別の言い方をすれば、そういった雑誌社は、お金をもらって仕入れた商品を売っているわけです。 私はまだ学生なので世の中のことがあんまりわかっていないのかもしれませんが、自分の常識としては、このシステムは非常に不自然に思います(逆に言えば、このシステムを考えだした人はすごいと思います)。そのため、このようなシステムは他の分野でも珍しくないのか疑問に思いましたので、文章にまとめてみました。 さて、以下は上記のような疑問を文章にしていて思ったことです。蛇足になってしまいますが、せっかくの機会なので付け加えさせていただきます。 今回の雑誌システムの矛盾点(?)にも関係するのですが、今の世の中は研究者にお金が入ってこないような流れにあるような気がしています。もちろん、研究者はお金儲けなどにとらわれてはいけないという風潮があることは理解しているつもりです。ですが、研究者がその働きに応じた収入を得るのは当然で、それが成り立たないと次の世代(特に優秀な層)がこの世界に入ってこなくなるのではないかなと心配に思う気持ちがあります。 実際に、学部生の頃に優秀だなと思っていた私の周りの人は、ほとんど博士課程には進まないようです。それどころか、生物学の分野に進むことすら避けているような印象があります。もちろん私は優秀な人ではないということは自覚しているのですが、自分は小さい頃からこの世界に憧れていたので、生物学の博士課程に進んだことを情報弱者だとかと嘲笑する風潮には抵抗を覚えます。 ですが、世の中はお金を中心に回っているということに少しずつ気づいてきたので(気づくのが遅かったかもしれませんが)、現在の状況では確かに生物学の博士課程に進むのは「得か損」かという観点では「損」になる(=つまりは博士課程進学者は情報弱者)ということも理解できます。でも何となく腑に落ちません。 何だかまとまりのない文章ですみません。「お前は金持ちになりたいのか?それとも研究者になりたいのか?」と言う叱責の声が出るのは承知しています。ですが、私は生物学が好きですし、この分野は大事だと思っています。そして、その研究を続けていたいとも思います。一方で、きちんとした報酬も欲しいとも思っています。 でも、まずはきちんとした業績を出すのが大事ですよね。その上で報酬を要求すればいいのですね。長文かつ駄文失礼いたしました。 執筆者:研究者の卵(有精卵であることを望む) BioMedサーカス.com・オピニオンより執筆者の許可を得て転載させていただきました。

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