2013.04.01 トピックス
労働契約法改正は朗報か
労働契約法改正は科学者コミュニティにどのような影響をあたえるか
2012年8月に労働契約法が改正され、2013年4月から施行された[i]。法改正で最も重要な点は、有期労働契約が5年繰り返され、通算5年を超えた場合、労働者の申し込みにより期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるというものである(第十八条)。これがいわゆる「5年ルール」と呼ばれるものだ。この改正をめぐって、研究現場が混乱している。ここで簡単ではあるが、現状をまとめてみたい。
なお、私は法律の知識が乏しいので、間違い等あればご指摘いただきたい。
1)法改正に対する政府の対応
現在かなりの割合の研究者が、有期労働契約で働いている。ポスト・ドクトラル・フェロー(ポスドク)は言うまでもなく、任期のついた大学教員や研究所の職に就いている者も多い。また、研究支援者(テクニシャン、研究室秘書など)も多くが有期労働契約で働いている。ティーチング・アシスタント(TA)やリサーチ・アシスタント(RA)も労働契約であり、大学院生時代に長期間TA、RAを行ったら、ポスドクなどになり同じ機関で雇用されたら、わずかな期間で無期転換の申し出の権利を有してしまう。このように、今回の法改正の対象になる研究者は多い。
しかし、この改正が閣議決定されるまで、今回の法改正が科学コミュニティにどのような影響を与えるか議論がなされてこなかった。当時の政治的な状況により、この法改正が可決されるとは思われていなかったからだという声も聞くが、法改正が検討された厚生労働省の検討会においても、研究者に与える影響についての指摘はなかったようである[ii]。また、文部科学省も今回の法改正が大学教員などに与える影響について、事前に検討していなかったようだ
政府に対し最初に問題点を指摘したのは、京都大学の山中伸弥教授のようである[iii]。山中教授は2012年3月、当時の古川科学技術担当大臣と面会した際に、法改正が行われると、有期労働契約で雇用してきた研究支援者などの雇用が維持できなくなると懸念を表明したという。
それと前後して、一部の研究者の間から懸念の声があがった[iv]。主に大学教授から、山中教授と同様に、この法律が大学に適応されたら、有期労働契約で雇用している研究者や研究支援者を、5年で「雇止め」せざるをえないというのである。
一方、主に若手を中心とする研究者からは、有期労働契約で長期間雇用しているのなら、それは無期労働契約すべき人材なのではないか、なぜ無期労働契約にできないのか、若手研究者などが有期労働契約で不安定な職に就かざるを得ない状況をつくり出した状況に目をつむってきて、いまさら騒ぐとは何事か、という反発の声もあがった。
こうしたなか、2012年4月に開催された「科学技術政策担当大臣等政務三役と総合科学技術会議有識者議員との会合」で労働契約法改正の問題が取り上げられ、関係者から意見を聴取した[v]。そのひとりとして私も招集されたのだが、ようやくその場で、この法改正が問題であることがひろく認識されることとなった。その後総合科学技術会議は、同年5月に「労働契約法の改正案について」という取りまとめを発表した[vi]。このなかで、「労働契約の内容の改善と合理性のない雇止めの防止」「研究補助者の雇用の安定化」「研究者等の雇用管理の在り方の見直し」「研究者の雇用における流動性の確保」の4点が取り組むべき課題とされた。
これらを受けて、内閣府では、平成24 年度科学技術戦略推進費を用い、海外の大学・研究機関における教員・研究者の雇用形態に関する調査を行った[vii](2013年3月まで)。労働契約法がEUの労働法制をモデルにしていることから、主にヨーロッパで研究者や教員がどのように雇用しているのかを調査し、「本調査結果を踏まえた検討を科学技術イノベーション政策推進専門調査会基礎研究・人材育成部会で行った上で、効果的・効率的な教員・研究者の雇用形態の在り方について関係省庁に情報提供、助言を行い、大きな方向性を共有していく」という。私もこの調査に関する検討委員会委員に就任し、議論に参加したが、各省庁や政府機関などから関係者がオブザーバー参加しており、関心の高さがうかがわれた。
なお、調査結果についてはまだまとまったばかりであり、機会があれば別にご紹介したい。
こうして問題が認識されるに従い、法改正の悪影響を指摘する声も増えている[viii, ix]。しかし、そうこうしているうちに、2013年4月を迎えてしまった。
2)何が問題なのか
この法改正の趣旨は、「働く方が安心して働き続けることができるようにするため(厚生労働省ホームページより)」であったが、なぜ逆に「雇止め」の危機が叫ばれるような混乱が生じているのか。以下に問題点をまとめたい。不正確な点などがあったらご指摘いただきたい。
一つは、たとえ望んだとしても、常勤雇用の研究者や研究補助者を増やせないという現状がある[x]。国立大学法人は自前の資産を持たないため、職員の雇用に関しては、国立大学時代の定員である「承継定員」に対して退職金が運営費交付金から支払われる[xi]。よって、退職金をどこから捻出するかという問題が発生するために、「継承定員」外の常勤職員を新規雇用することは困難であるという。運営費交付金が年1%ずつ減額されているのも大きな問題だ。
このため、「継承定員」より定員を増やしたいときは、外部資金、すなわち研究者や機関が取得するプロジェクト型研究費などに依存せざるを得ない。外部資金は安定的なものではなく、プロジェクト終了等に引き続き、別の資金を獲得することができない場合、その資金で雇用されていた職員を継続して雇えない可能性が出てくる。
山中教授をはじめ、大学教授が改正労働契約法に懸念を示すのは、資金が枯渇した場合を想定しているものと考える。継続勤務により無期雇用に転換したにもかかわらず、給料を払うめどが立たなくなった場合にどうするのか。
無期雇用に転換したのちに資金がなくなったとしても、簡単には解雇できないし[xii]、訴訟が起こるリスクもある。大学が5年継続雇用になる前に「雇止め」を行おうとするのは、このリスクを回避しようとしているためではないかと考えられる。
二つ目は、この法改正の解釈が専門家間で異なっていることである。
ある弁護士は、大学の講師等5年任期制等(特殊契約)の再契約について、「これらの職は学校教育法上のものであり、労働者の雇用上の権利といったものではないため、5年を超えて再任用されたからといって、任期を定めた任用は、職ごとに行うものとされているので、無期転換できるものではありません。」と述べる[xiii]。
別の弁護士は、リサーチ・アシスタント(RA)を行って給料を払われた経験がある大学院生が、大学院修了後に同じ研究室でポスドクになった場合、雇用の継続性はなく、「新しい契約としてみるのが妥当ではないか」と述べる。また、非常勤講師については、「どちらかというと雇用契約にはあたらないため、労働契約法は適用されないという判断が予想されます」と述べる[xiv]。
しかし、現実問題として、非常勤講師は雇用契約にあたると考えられているようで、一部の大学で非常勤講師などに、5年を超える継続雇用ができないことを前提にする就業規則を制定しようとしている[xv]。無期雇用に転換する方針を示した大学や[xvi]、こうした就業規則制定方針を撤回する大学もあるが[xvii]、大学の対応が混乱している印象がある。多くの大学は、他大学等の動向を伺っているようだ。
また、今回の改正は2013年4月1日以降の雇用契約に対し適応されるのにもかかわらず、既に数年雇用しているということで、大学当局から技術補佐員の雇用契約を今年いっぱいで打ち切れと指示された教員もいる(私信)。ほかにも、今回の法改正では6ヶ月の「クーリング期間」があれば継続年限のカウントがリセットされる(継続6年ではなく、あらたに1年目からはじまる)ので、それを利用して、6ヶ月以上雇用契約を結ばないようにして、実質継続雇用を行う方針を考慮している研究機関もあるという(私信)。その6ヶ月間は、研究室に無給で所属し研究を行うことになるが、履歴書に空白ができてしまい、その後の就職活動に不利になるのではないかと懸念する声を聞く。
三点目にあげたいのが、「無期契約」の意味である。無期契約は終身雇用とは違うとも言われる。期間の定めがないだけであって(open ended)、たとえば研究費が切れたなどの事情で契約を終了することができるという意見もある。
こうした曖昧な点は、判例を重ねるしかないが、そうなると訴訟が多発することになる。
また、改正労働契約法では、労働条件は有期契約時と同一の労働条件であるとされている。つまり、契約期間が無期になっただけということになる。無期転換されても、低い賃金が引き継がれるということもありうる。無期になる分ローンが組める、精神的に安定するなどプラス面もあり、議論は分かれるところではある。
3)どうすればよいか
こうした混乱のなか、研究者の懸念は強まっている。こうした事態にどのように対処すればよいだろうか。論点を整理したい。
この問題は、日本の研究がどうあるべきか、という問題と密接に関わる。
研究者の任期制は、研究者の流動性を高め、競争を促し、研究生産性を高めるという目的で導入されている。もちろん、あまりに不安定だと短期的に成果の出る研究しかしなくなるといった「副作用」があり、各国とも競争と安定のバランスに腐心しているのが現状ではあるが(テニュア・トラックはその一例)、その中で今回の労働契約法改正をどう取り扱うべきか。
諸外国では、ドイツでは、一般の労働法制のほかに、研究者に適応する学問有期契約法という法律がある。この法律では、研究者の有期雇用は12年(医学生は15年)までとされている[xviii]。ドイツの場合、博士課程も労働契約で考えられている点は留意が必要だが、研究者の資質を見極めるためには、ある程度の期間は有期契約が必要という考えだろう。韓国では、2年という短期間の連続有期契約で無期労働契約に転換できるが、大学や研究機関の研究者は適応が除外されている[xix]。
諸外国では、一般の法が研究者にも適応されている。イギリスでは、アバディーン大学のボール博士の訴訟で、外部資金で雇用されていることを理由に無期雇用に転換できないのは違法であるとの判決が出てから、研究者も無期雇用に転換できることになっている[xx]。ただ、イギリスでは日本より解雇規制がゆるく、ルールに従えば無期雇用の人も解雇できるという。
解雇規制がよりゆるいアメリカは参考にはできないが、そのアメリカでテニュア・トラック制が導入されているということは、研究者の競争と安定を考える上で示唆的だ。
こうした状況のなか、日本はどの道をとるのか。労働契約法第十八条を、大学や研究機関に対して適応除外にするべきなのか。研究者は業務委託にして、労働契約ではなくすのか[xxi]。
また、研究者と研究支援者は分けて考えるべきという意見は多い。山中伸弥教授も、研究支援者の安定雇用を訴えると同時に、研究者は競争的であるべきだと述べている[xxii]。これも日本の研究システムをどのようにデザインすべきかという問題に関わる。
いずれにせよ、この混乱状況を改善するために、政府が何らかの指針を出すべきだろう。国立大学法人の「継承定員」外の無期雇用が可能なのか、RAやTAはどう考えるのか、競争的資金が取れなかったことでの解雇は許されるのか。研究支援者、補助者の安定雇用をどう実現すべきか。
そして、忘れてはならないのは、キャリア形成という視点だ。EUには「The European Charter for Researchers[xxiii]」や「The Code of Conduct[xxiv]」があり、研究者のキャリア開発をすべきとしている[xxv]。日本では、ポスドク(大学院生も)をいわば「労働力」として使い、キャリア形成という視点を持つPIは多くない印象だ[xxvi]。それでは人材の使い捨てと言われても仕方ないだろう。
文部科学省は「文部科学省の公的研究費により雇用される 若手の博士研究員の多様なキャリアパスの支援に関する基本方針 ~雇用する公的研究機関や研究代表者に求められること~[xxvii]」を公表し、PIにキャリア支援を求めている。研究者の意識改革も必要だ。
4)最後に
労働契約法の改正は科学コミュニティに大きな影響を与える。とはいうものの、多くの問題は以前から未解決のままあり、この改正によって問題が顕在化したにすぎないといえる。
流動性と安定雇用をどうバランスをとるか、というのは、研究者だけの問題ではない。雇止めといった事態は他の業界でも起きている[xxviii]。研究者も他の業界も含めた社会の動向について関心をはらう必要があるだろう。
この法改正を、日本の研究システムはどうあるべきか、そして、社会の生産性を高め、かつ働きやすいしくみつくりについて、科学コミュニティにとどまらない広い視点で考えるきっかけとしたい。
近畿大学医学部講師*
サイエンス・サポート・アソシエーション代表
榎木英介
(*この意見は筆者が所属する組織の意見を反映しているものではありません)
i. 労働契約法の改正について~有期労働契約の新しいルールができました~
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/
ii. 労働政策審議会労働条件分科会で議論が行われていたようである。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000008f5z.html#shingi3
第99回労働政策審議会労働条件分科会資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001z63l.html
にて「労働契約法の一部を改正する法律案要綱」について(諮問)が公開されている。
iii. http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/120419giji.pdf
iv. 有期雇用5年超で無期雇用転換を義務付ける労働契約法改正案が
研究者コミュニティーに与える影響について
http://togetter.com/li/277188
v. 科学技術政策担当大臣等政務三役と総合科学技術会議有識者議員との
会合議事次第 平成24年4月19日
http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20120419.html
vi. 労働契約法の改正案について 総合科学技術会議有識者議員 平成24年5月31日
http://www8.cao.go.jp/cstp/output/20120531_roudoukeiyaku.pdf
vii. 平成24 年度 科学技術戦略推進費「総合科学技術会議における政策立案のための調査」
に係る実施方針 平成24年8月30日 総合科学技術会議
http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20120830/siryosi-1_revice.pdf
viii. 太田哲郎 改正労働契約法「5年で無期」が大学教育に及ぼす影響
http://agora-web.jp/archives/1518728.html
ix. 西田亮介 改正労働契約法が博士院生・若手研究者に及ぼす(少なくない)影響
http://blogos.com/article/52631/
x. 本当に増やせないのか検討されているか不明ではあるが
xi. http://www.zam.go.jp/n00/pdf/ne003002.pdf
xii. 解雇が認められるとの解釈もある
http://www5.ocn.ne.jp/~union-mu/1112_12.pdf
xiii. 安西愈 雇用法改正 人事・労務はこう変わる (日経文庫) 2012年
xiv. 坂本正幸 改正労働契約法は大学にどのような影響をあたえるか
http://article.researchmap.jp/qanda/2012/12_01
xv. 第183回国会 参議院予算委員会 第5回 田村智子議員(共産) 2013年2月21日
xvi. 徳島大1000人“無期雇用”へ 労組の運動実る 雇い止め改善「画期的成果」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2013-03-18/2013031801_01_1.html
xvii. 琉大、非常勤講師の雇い止め撤回
http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-03-30_47298
xviii. http://www.gesetze-im-internet.de/wisszeitvg/BJNR050610007.html
xix. ジュリスト2012年12月号 〔鼎談〕2012年労働契約法改正――有期労働規制をめぐって
http://www.yuhikaku.co.jp/jurist/detail/018722
xx. 労働政策フォーラム開催報告【報告1】
「国際比較:有期労働契約の法制度~欧州諸国の最近の動向~」(2010年3月8日)
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/giji/20100308/houkoku1.htm
xxi. http://article.researchmap.jp/qanda/2012/12_02/
xxii. 科学技術政策担当大臣等政務三役と総合科学技術会議有識者議員との会合
議事概要 2012年10月18日
http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/121018giji.pdf
xxiii. http://ec.europa.eu/euraxess/index.cfm/rights/europeanCharter
xxiv. http://ec.europa.eu/euraxess/index.cfm/rights/codeOfConduct
xxv. 研究者のキャリアとポスドク問題
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-af6f.html
xxvi. 知識基盤社会を牽引する人材の育成と活躍の促進に向けて 参考資料2
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/
toushin/__icsFiles/afieldfile/2010/01/06/1287788_2.pdf
xxvii. http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu10/
toushin/__icsFiles/afieldfile/2010/01/06/1287788_2.pdf
xxviii. 有期雇用 4月新ルール 改正労働契約法
5年超で「無期」転換可能だが 「雇い止め」増の懸念も
http://nishinippon.co.jp/nnp/lifestyle/topics/20130323/20130323_0001.shtml
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私大薬学部の特任助教です。研究開発力強化法という法律が改正されたそうです。
私自身まったく知らなかったのですが、簡単に言うと、通常5年で得られる「無期転換権」が、大学等の研究者に限って10年経過しないと「無期転換権」が得られないということだそうです。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/pdf/185hou22siryou.pdf/$File/185hou22siryou.pdf
私の大学では、昨春の法改正を受けて、5年経過したら無期転換を認めるということになったのですが、今度の法改正を受けて、10年経過しないと認めないということに変更するようです。
この法改正について、皆さんご存じでしたでしょうか?
また、この法改正を受けて、皆さんの大学・機関で何らかのアクションがありましたでしょうか?
充分機能できるのではないでしょうか。
おそらく、最もポスドクを、そしてポスドク問題を内包しているのがこの学会(分生)だと思います。そういった意味でも他学会に先駆けてアクションを起こす必要があると思います。
転職やキャリアの継続以外にもボスとの関係、ラボ内の研究不正、勤務時間や任期付公務員の雇用保険等、理不尽な雇用体制など。
相談窓口が無く、一人悩み、精神のバランスを崩している方々を実によく見ます。
個々の研究者の置かれている状況をよく聞いて把握し、解決のために情報発信していく機能を、研究者のリベラルな集まりである学会が担うのは悪くはないと思います。
学会や役人はすぐに実態把握と称して、アンケートを取りたがりますが、「現状に問題なし80%」の裏にある20%こそが問題なので・・・
ただし、分生に関してはその大きさとは比例せず、だいぶ学会自体が軽んじられているようなので、「学会に権威・権力を持たせる」ことは必須かもしれません。
あくまで注意深くですが。
なにしろ、大学への研究不正調査の意見文は無視され、学会HPの採用情報には捏造研究者の一本釣り出来公募が堂々と載っていたこともあるくらいですから。
京大の実態に関して、補足させていただきます。
有期(通常1年)の時間雇用職員として採用された場合、
契約の更新は通算5年を越えることはできないというのが
京大の内規にあります。–> http://www.kyoto-u.ac.jp/uni_int/kitei/reiki_taikei/r_taikei_02.html
私は最初は技術補佐員、後に教務補佐員として雇用されましたが、
この規定の第4条第3項(5年の制限を適用しない特例)に示される別表第2、別表第3には
技術補佐員、教務補佐員に関する事項はありません。
この規定に従って、一度、契約の更新が行われず(大学側の説明では「任期満了」だそうです。)、
失職しました。しかし、その後、私のノウハウ等を請われ、
来て欲しいとのお話がありました。
京大との直接雇用契約は、失職後1年間はできないとのことで、
「来て欲しい」とおっしゃって頂いた先生方の協議の結果、
派遣会社に登録し、派遣社員として業務に従事することになりました。
このときの私の給与額は、失職直前のものと同額にしていただきました。
つまり、先生方の研究費から私の給与額よりも多額を派遣会社に支払ったということです。
また、派遣会社を経由することで、雇用問題を回避するという「抜け穴」を利用しています。
この仕組み(抜け穴)については、先生方のうちのどなたかが事務方に尋ねられた際に
教えてもらったという話があるようです。
(派遣会社は営業努力なしで儲けたんですね。)
その後、失職後1年が経過した時点で、京大に直接雇用されることになり、
今に至っております。(学内共同利用施設で実務を担当しております。)
つまり、京大の内規に定める「通算5年」はすでに守られておらず。
「連続5年」として扱われているのです。(<—自己崩壊?)
先日、ある先生とお話する機会があったのですが、
少なくとも京大では「技術の継承」は、それぞれの先生方に任された事項だそうです。
では、「学内共同利用施設」における「技術の継承」はどうなるのか、今から心配しております。
極端に言えば、私個人は困りませんから、「勝手にして」と言っても良いのでしょうが、
若手の研究者の方々は困ることになるんじゃないかなって思います。
財産が失われ、ノウハウを利用したい方の道を閉ざされることになっちゃいますね。
私自身、そこそこの年齢ですので、今の契約が満期になって失職しても
どうにかなると思いますが、もし、私の持っているノウハウを継承したいのなら、選択肢は三つです。
一つは、5年の満了後、私を派遣社員として利用すること。(<—こんなこと繰り返していいんでしょうか?)
一つは、今のうちに継承者を育てるために私の指示の下で業務を行う人を配置すること。
最後の一つは、5年での雇い止め条項を廃止すること。(期限無しの雇用は望みません。)
ゆとりを持たせるなら、今の契約が満期になっても、まだ、私は定年年齢になっていませんので、
今の内規を変更し、5年の年限を撤廃することでしょうね。
法で希望者をすべて任期のない雇用にするというのは、
個別事案を考えると無理があるように思います。
このあたりは、それぞれのケースを列挙し、どう対応すべきかを検討し、
それからまとめの方向を生み出すべきじゃないかと思います。
少なくとも京大では、内規が変更されない限り、
時間雇用職員の「暫定的な派遣社員化」が横行するのではないかと思います。
これは研究費の無駄遣いをも表していると思います。
大学の場合、研究だけやっているわけではないのに新たなラボで5年で一から始めてCNS出して教育もやっていくなんて無理でしょう。今のトップダウンな制度がそもそも研究の世界では無駄が多い。PhDとったら皆PI。無期雇用したPIには最低賃金保障。教育のdutyには手当を追加。それ以上の賃金は研究費から自己裁量で。個々のグラントからは最低限自己の賃金として上乗せしなければならない額を規定することで、多数のグラントを得られる優秀な人物は給料も上がる(周りからの圧力で全額研究費にしなければならなくなることを防ぐ)。テクニシャンは派遣で研究費で雇う。派遣社員は派遣会社が上記の法のもと雇う。優秀なテクニシャンはPIが雇用延長することで5年を越えれば無期雇用。テクニシャンがパーマネントで優秀なポスドクが不安を抱えているのは理不尽。
PhDは優秀な人材の集まりでなければならない。若くても年寄りでも優秀な人材が独立性をもってやっていけるシステムが必要。トップダウンで支持のもとやりたければ共同研究すればよい。雇用関係までトップダウンが諸悪の根源。仕事をしない輩に年功序列で給料を払っているから無期雇用がリスクになる。最低賃金で広く保障をし、優秀な人材に出来高を追加。できないと評価されてしまう人間、マイナーな分野を排除しようとす極端な方針がそもそもの間違い。裾を切り落とすのではなく、裾を広くすることが重要。
私は大学ではなく研究機関ですが、同様の状況です。誰か事務方の方で職位や所属をすり替えながら、10年以上任期制職員として雇われ続け、つい昨年までは「君が必要だから、この先も頼む」と言われていましたが、今回の法改正によって、雇い止めとなりました。
大学や研究機関でも、一定の年代以上は定年制の人が多い。任期制の待遇の決定や、任期の更新、定年制ポストへの身分変更の機会などを決める立場にあるのは、ほとんど定年制職員だけなので、任期制職員の生活不安の問題や、待遇の改善は一向に進まず、雇用が不安定なことに加えて、不当に経済的に不利な条件で雇われている。雇用が不安定な分、定年制よりも有利な年俸であれば、多少、雇用が不安定で一時的にポストを失っても生活を維持できるが、現状は単にコストが安くて比較的簡単に首を切れる、便利な労働力という扱い。研究者の流動性を活発にするのが目的ならば、管理職や部門長を含めて、全て任期制にすれば良い。あるいは、定年制と任期制との身分差別をなくすためにも、定年制の待遇は任期制だけで話し合って決めるようにするのがフェアというもの。
細かい話で大変恐縮ですが、本文中「適応」すると書いておられるところは「適用」するの間違いでしょうね。
>定員の数というのは、各大学の中ではどのように使ってもよいわけで、ある学部から他の学部へ移したり、教員の枠を事務員に移したり、そのあたりは自由
>国から退職金が出る特権的なスロットの数は、大学ごとに固定
ありがとうございます。ここがはっきりしたのは大きいですね。榎木さんの書かれたように、やはりネックは退職金ですか。
退職金の無償枠の問題を定員の問題とすり替えるのは言語道断、
までいかなくても、本質をはき違えているような気がします。頑張れ大学当局!
Takemizuさんのご質問についてです。今日、文科省を訪ねる用事があったので、ついでにこの件について聞いてみました。
国立大学が法人化された際に、その時点での定員数の分だけは退職金が国から特別に支払われる、というということになったそうです。この定員数分の退職金は、通常の運営費交付金の外枠でつくものであるとのことです。この数分の退職金は各国立大学の一種の権利のようなものとして当面は国から保証されているわけですね。
ただ、この定員の数というのは、各大学の中ではどのように使ってもよいわけで、ある学部から他の学部へ移したり、教員の枠を事務員に移したり、そのあたりは自由なようです。
ですので、大学の独自の予算(学費、特許収入、病院収入など)で、常勤の人を増やしたり減らしたりすることはできるわけです。ただ、国から退職金が出る特権的なスロットの数は、大学ごとに固定されていて変わらない、ということですね。
お話を聞いた限りでの僕の理解は、そんな感じです。もし、間違っている部分があれば、どなたか訂正していただけると有難いです。
—–
ということで、もし間接経費を積み立てて退職金などにあてることができるようになれば、常勤の枠も増やせるんではないですかね。現状では、年度ごとに使いきらなければいけないので、必ずしも必要でないものを大学がどっさり購入したりするわけですが、これが有効活用できるようになるのでは。
承継定員の数が決まっているというご意見はよく聞きますが、誰がどういう根拠によりどのように決めているのか、いつも判然としません。こちらでうかがってもよろしいでしょうか?
確かに、委託となると共著者にならない可能性は高いですね。その場合、委託された人の身分があるていど保証されたり、ポートフォリオ的に実力が証明されていることが重要になりそうですが、学振やJSTがそういった人々を雇用するというのは妙案に思えました。
別トピック、お待ちしております。
Kannoさんのおっしゃる「フリーランスの研究者」というのは一つの手でしょうね。実際、僕の研究室にいた研究者で、起業して「フリーランス研究者」的な感じでやっている人がいます。こちらから仕事も頼みやすいですし、ぼちぼちうまく行っているような印象です(ご本人にきいてみないとわかりませんが)。ただ、業務委託、というような場合、論文の共著者には普通は入らないだろう、ということはありそうです。
「大学が専門職員を雇いづらい」というのはありますね。このポイントは山中先生もご指摘されていました。「承継定員」の数が決まっているでしょうので、助教とか教授とかのポストを減らしてそういうのに当てる、ということをする必要があるわけですが、そう簡単にはできないでしょう。
この二つの方法の折衷案のような感じですが、学振やJSTが専門技術を持つ方々の基本的な身分を保証しつつ雇用し、各大学・機関に派遣するようなことはどうか、と思っています。その派遣先のPIの研究費から、能力に応じて、ベースの給与にアドオンされる、という具合です。これですと、最低限の身分の安定も得られますし、競争性も失われることはないです。特殊技術・能力を持つ人は、自分をより高く買ってくれるPIを見つける、ということになります。この案については、またトピックを改めてそのうち提案したいと思っています。
ポスドクには労働環境を相談できるところが少ないのが問題ではないでしょうか。あるのかもしれませんが、そういうことをどこでも教わりません。ポスドク等雇止め駆け込み寺のようなものを学会でつくってみてはどうでしょう。学会じゃだめかな。
20代ポスドクです。
昨年度は私もプロジェクト研究員として大学の有期雇用教員の枠でした。
前々からフリーランスの研究者やテクニシャンは存在し得ないのかなぁと考えていました。
今回の問題は、大学の若手のポストが少ないという問題とは別に、
さらに有期雇用を5年までしか継続出来ないことで、日本の研究の継続性が損なわれる可能性が出来て来たところに問題があると解釈しています。
法律を変えるか、法運用を変えるか、もしくは大学の中での仕組みを変えるかという問題になると思うのですが、どちらかといえば手が付けやすそうな大学の中の問題をいじるという策もあるのではないかなぁと思いました。
主に、大学におけるフリーランス契約(業務委託)と専門職員採用の可否の2点にです。
今回の法の下でも、研究者や技術支援員とフリーランス契約を結ぶという手はあるのではないかと思います。例えば多くの出版社には10年、20年編集部に出入りしてしっかり稼いでるフリーライターは多いと思います。これで件の半年をしのぐこともできると思います(個人的には難しい実験を短期間で請け負うフリーのテクニシャンみたいな人が存在可能なら面白いとも思っています)。
これは大学による業務委託にあたると思いますが、ここで問題になるのは大学の制度ではないかと思っています。
業者(企業/法人)に委託はしやすいが、個人に委託がし辛い(「前例」が無い)というものはよく見られると思います。もしくは合見積もりを必ずしなければいけないなど。
また、大学が専門職員を雇い辛いという問題もあると思います。どうやら定職の大学職員とは部署の異動を必ずするものであると、私は理解しています。
大学広報などに関わることがここ数年あったのですが、たとえば広報や編集のプロ、もしくはwebマスターという職能を持つ人は大学にはおらず、こういうスキルを持つ人は有期雇用の職員となり、今後この5年ルールが適用されていくことになると思われます。
このことは、各大学の研究支援課のような部署でも同様なわけです。つまり、特許や研究支援のプロを一般職員として雇えない。逆に言えば、そういう人が大学職員にいないために、プロジェクトごとに有期雇用しなければならないのではないでしょうか?
このような専門職員を大学に配置することは博士のキャリアとしても重要な方向性ではないかと思います。
「客観的にはロクに働いていない人」は身の回りで一人二人はぱっと思い浮かびますね。まさに「その身分に安住して」という感じです。そのポジションが勿体なくてしょうがないです。
有期労働契約で働く人を守ろうとして法を改正したのに、むしろ雇止めを促進させるようなことになるとは。何のために法改正をやったのかわからないですね。
「正規雇用者を解雇しやすくする制度」になると、ますます大学に人が集まらなくなりますよね。
再雇用の実績をつくらない工作ということですね。それが大学の内規になっているとはひどいですね。
これ http://www.jil.go.jp/hanrei/conts/100.htm をご参照いただけるとよいかと思います。「期間の定めのある労働契約(有期契約・期間雇用)が反復更新されて、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となった場合には、解雇権濫用法理が類推され、雇止めには合理的な理由が必要となる。」ということがあり、それが訴訟リスクを生む、ということですね。
法改正前に継続雇用で問題となるような訴訟リスクとは、どういった訴訟リスクなのでしょうか。
ちなみに、雇い止めになった人は、(運良く?)派遣会社に入られたり、関連会社の営業職を始めたりされてました。大学に入り直した方もいました。私が見る限り優秀な方々でしたが、運が無かったようにも見えます。「任期期間中の次の職探しのような個人行動はできない(ボス/雇用者に対する恩義、または任期中の多忙さ?のため)」的な発言をされていたので、真面目すぎる方々だったようにも思います。
有期雇用の人件費は基本的に個別の研究費で、大学の正規ポジションの人件費とは扱いが異なると思います。なので、退職金の確保というのはあまり関係ないのでは。
ここで論じられていないのは、かつて任期制という制度がなかったころに無期雇用で雇われて、その身分に安住して、本人は働いているつもりかもしれないけれども客観的にはロクに働いていない人が現状たくさんいるかもしれない、という点です。こういうことを公言すると袋だたきにあってしまいそうですが、目をそらしてはいけないような気もします。資金が切れたときに雇えないから、というよりも、そういう人を増やしたくないから無期雇用に移したくない、という側面はないでしょうか。
正当な理由で辞めさせるのが難しいから解雇自由にしたいと。それだともうブラック企業ですよね。
いったん正規で雇ってしまうと、雇えなくなってしまったときに辞めていただくのが難しい。なら、雇い止めしておくのが安全、というのがいちばんポピュラーなケースなのでしょうか!?
ということは、正規雇用者を解雇しやすくする制度が導入されれば、その点は(良くも悪くも)クリアされる、ということになるんでしょうか…!?
5年雇い止めの問題は、この法改正の前から存在していたんですよね。
僕が以前在籍していた京大では、僕の研究室で雇用していた人が大学の内規で、5年で雇い止めになり、6ヶ月間の「クーリング期間」の後、京大に再雇用されました。その人はたいへん有能で、その人を雇用するための研究費も問題なく十分にあり、かつ研究室としては継続雇用のために大学にかなり掛け合ったわけですが。大学としては訴訟リスクをとれない、ということでした。この方は何も悪いことはしていないし、仕事は上司から高く評価されており、雇用のための予算も問題なくあったのにもかかわらず、6ヶ月失業、ということになったわけです。これは、たいへんおかしな話であり、日本の科学にとってプラスになるとは思えないです。
この法改正により、5年雇い止めの問題がさらにわるい方向に動き、このような事例が増加する恐れがある、ということですね。法の「改正」の主旨と正反対の方向に動く大学が増えてしまわないよう、なんとかしていただきたいものです。
ぶっちゃけ退職金の確保のため若者の雇用には金を出せない、というのが大学側の論理に見えますが…