2024.10.21 HOME
【報告】雇止め問題と博士人材の課題について、盛山正仁文部科学大臣との意見交換を行いました
2024年9月25日、盛山正仁文部科学大臣を訪問し、大学・研究機関での雇止め問題と、博士人材活躍に向けた課題と提案について、研究者の意見を直接お伝えする機会を得ました。今の博士をめぐる研究現場のリアルな現状について、研究関係者へのアンケートに基づいた情報を共有し、日本の社会で博士が安心して研究関連活動に集中し、活躍できるようにするための意見交換を行いました。
会合の参加者は、日本神経科学学会・前会長、日本学術会議・神経科学分科会・委員長の柚﨑通介教授(慶應義塾大学)、日本脳科学関連学会連合・代表の高橋良輔教授(京都大学)、SciREX事業で博士の安定性と流動性を両立したキャリアパスの仕組みを提案する宮川剛教授(藤田医科大学)、自らが博士課程の大学院生である三田剛嗣氏(慶應義塾大学・博士課程/生化学若手の会有志)と盛山宗太郎氏(慶應義塾大学病院 精神・神経科学教室)の5名でした。
草の根アンケートが映し出す博士人材の課題
まず最初に三田氏より生化学若手の会有志が実施した、「博士人材活躍プラン」に関連する研究者草の根アンケートの結果を大臣にご報告しました。アンケートには博士課程進学者への支援の拡充を求める声や、博士号取得後の企業就職やアカデミアのポスト不足への不安を訴える声などを紹介し、産業界へのキャリアの出口戦略に加え、アカデミアでのキャリアパスの整備の重要性をお伝えしました。
アンケートの詳細はこちらから。
「越境研究員制度」の提案
続いて宮川教授が、SciREX事業の一環で取り組んでいる「越境研究員制度」についてご説明しました。宮川教授らが提唱するこの制度では、博士号取得者を大学コンソーシアムや企業、資金配分機関等で終身雇用し、大学・研究機関・企業等が競争的資金や自己資金などの多様な予算を人件費として活用して研究関係者を受け入れることで職の安定性と流動性を同時に高めることを目指しています。博士人材の多様なキャリアパスを支援し、研究者がアカデミアと産業界の間で柔軟にキャリアを選択できる環境を提供することで、社会全体に貢献できる新しい制度と博士像を提案しました。
越境研究員制度の内容はこちらの記事から。
雇い止め問題と労働環境の課題
最後に、柚﨑教授と高橋教授が「大学・研究機関での雇い止め問題」に関する研究者関係者へのアンケートの結果をご報告しました。この調査は任期付きの研究関係者の5年あるいは10年雇い止め問題に関する大学・研究機関のリアルな現場と当事者の声を浮き彫りにしたものです。結果からは、改正労働契約法が研究者の雇用に「悪い影響を与えた」と回答した人が57%に達しており、クーリング期間をおいた再雇用の事例が多数報告されるなど、研究関係者たちが経済的・精神的に厳しい環境に置かれ、若手の博士課程離れや我が国の研究力の低下を招いている現状をお伝えしました。
アンケートの結果はこちらから。
大臣との意見交換
盛山文科大臣は、文部科学省が取り組みを開始した博士活躍プランに触れ、多くの博士人材を抱える海外企業との競争においては、日本の企業が博士人材を積極的に採用していく必要があること、そして、ただ博士採用を増やすだけではなく、高度人材にふさわしい職務や条件を準備していく必要があることを語りました。また、博士が企業に就職しづらい現状を変えるため、大臣自らが経団連など産業界に働きかけて経営者と直接の議論を重ねていることを紹介されました。また、大学の学長などの経営層との対話を行うことなども含め、アカデミア内で議論を行った上で政策提案をまとめて提示すると良いのではないか、というような期待を示されました。
今後の展望
今回の訪問は、博士人材の育成と雇用環境の改善に向け、大臣と研究関係者と博士の窮状と現場の課題を直接情報を共有し、意見交換をさせていただく貴重な機会となりました。政府、産業界、研究コミュニティの間の対話を活性化し、博士号取得者が、その特長を活かすことのできるキャリアを選択し、安心して活躍できる環境を整えることで、日本の科学技術力が飛躍的に上がり、日本、ひいては世界の人々のウェルビーイングの向上に貢献することができるはずです。この議論をきっかけに、博士人材の活躍を可能とする持続可能な仕組みとはどういったものかについてさらに議論を重ね、具体的な施策の実現へと進めていきたいと考えています。
訪問参加者
高橋 良輔:京都大学・教授、日本脳科学関連学会連合・代表
柚﨑 通介:慶應義塾大学・教授、日本神経科学学会・前会長、日本学術会議・神経科学分科会・委員長
宮川 剛:藤田医科大学・教授、日本神経科学学会・将来計画委員会・委員長
三田 剛嗣:慶應義塾大学大学院 医学研究科・D2/Keio-Spring
盛山宗太郎:慶應義塾大学病院 精神・神経科学教室
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