【帰ってきた】ガチ議論
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トピックス

研究不正フォーラムの概要とご意見・提案の募集

2-300

分子生物学会年会の研究不正フォーラムの概要ができ上ってきました。以下は、年会プログラムに載せる告知です。 日程とタイトル 12月3日(火)10:00 ~ 11:30 研究主宰者や共同研究者が研究公正性に果たすべき役割 12月3日(火)14:00 ~ 15:30 研究機関が研究公正性に果たすべき役割 12月4日(水)10:00 ~ 11:30 研究不正を防ぐジャーナルシステム 12月4日(水)14:00 ~ 15:30 研究不正を防ぐ研究費配分システム 12月5日(木)10:00 ~ 11:30 不正調査の実際と有効性 12月5日(木)14:00 ~ 15:30 まとめ、今後の課題と次のアクション ※セッションの概要は、翌日の朝までに年会HPにアップする予定です。 会 場:神戸ポートピアホテル 地下1 階 トパーズ 近年、研究の発展を阻害するような研究不正が続発し、研究者に対する信頼性が大きく揺らいでいます。ライフサイエンスの研究成果が、医療技術や薬の開発などを通して社会と直結する現代において、研究の公正性を確保することは絶対的に必要です。研究不正を防ぐための何らかのルール・仕組みを、早急に作ることが必要ですが、その任務を主導するべきは我々科学者であると考えます。なぜなら、我々は当事者であり、我々だけが、不正に関する種々の事情を正確に理解し、適切に対応できるからです。もし、我々がこの危機に対して何もしなければ、外部から新しいルールを押しつけられることは間違いなく、それが、不合理で研究の障害になったとしても、何一つ文句は言えません。このフォーラムでは、これまでの様にスローガン的な結論を出すのでなく、過去の不正事例を検討し、どうすれば不正を減らすことができるかに関する具体的な提案につなげることを目的とします。また、それによって、この問題に対して科学者社会に、健全な自浄作用が保持されていることを一般社会に向けて表明したいと考えます。 フォーラムの形式と内容 本フォーラムは、漠然とした一般論に陥ることなく、不正を減らせるような具体的な提案につなげるため、テーマを絞った6つの独立したセッションから構成されています。各セッションのテーマに適した人材を講演者、パネラーとして招聘し、基本的に講演以外は自由討論という形で議論を深めます。講演を含む、全発言は全文記録し、不適切発言などを削除した後、全面公開します。また、サイエンスライター(2名程度)に記録をお願いし、客観的な立場からまとめをお願いすることを計画しています。 なお、このフォーラムは糾弾のためにあるのではなく、あくまでも未来に向けての改善策を探る事が目的です。このことは、フォーラム参加者全員がしっかりと心にとめておいていただけるよう、お願いいたします。重要な関係者に参加をいただくべく、様々な働きかけをしておりますが、内容の詳細につきましては年会HPにアップデートしていきますので、そちらをご覧いただければ幸いです。 研究倫理委員長 小原 雄治 理事長 大隅 典子 以下は年会長・近藤滋による解説+αです。 フォーラムは、テーマを変えて全部で6セッション行われる予定です。各セッションにおける内容は、ゲストの予定により入れ替えになる可能性もありますので、是非直前に年会HPでご確認いただけますようお願いします。どのようなゲストが来るかが重要です。絶対に確実とは言えませんが、ジャーナルサイドからはN誌の編集者が来てくれる可能性があります。また、研究費の配分機関からも、担当者が来てくれることになっています。あと、不正の起きる背景や、どうして防げなかったのか?を考える時に一番大事なのは、その不正の中核にいた人達であり、彼らの証言が極めて重要です。彼らをフォーラムに招きたいと思っていますが、今のところお約束はできません。 フォーラムでは「どうやれば不正を減らせるか」を建設的に話し合うのであり、それぞれの立場を攻撃しあう事では無いので、そのあたりを心にとめてフォーラムに参加していただけると大変ありがたく思います。 議論する内容に関してはある程度固まってきていますが、特に議論してほしいことや提案があれば、この記事のコメント欄に書きこんでください。また、当日発言したい、という人がいれば、そのこともコメント欄に。確実とは言えませんが、実行委員会で取り上げて検討します。 以下、コピペ論文の処理に関する私の意見です。(フォーラムで発言しようと思っています) 不正問題に関して研究者間で話していると、大抵の場合、ジャーナルが強制的にリトラクションしないのが悪いとか、研究費の回収を行わない配分機関が悪いとか、結果を発表しない@@大学の首脳が悪いとかいう話が出てきます。実際そういった面もあるでしょうが、考えれば彼らは研究をサポートする立場です。まず、研究者自身に自浄作用があることを示し、それを研究者以外の当事者や社会全体に浸透させることが大事であると思います。公正局は確かに必要でしょう。実際に、不正事案は多発しており、それを関係機関がうまく処理できているようには見えませんから。しかし、公正局ができても、それがうまく運用できるかどうかは、研究者自身の良識のレベルにかかっていると思います。 いわゆるコピペは、データだと主張している図に、違うものが存在しているわけなので、悪意があったかどうかに関係なく、「その論文が信用に値しない」ことを明瞭に示しています。たとえ、コレクションをジャーナルが認めたにせよ、読者はその論文のデータを信用しないので、その論文は「アカデミックな意味で」存在価値がありません。したがって、その論文に関する全てを代表する責任著者の義務として自主的にリトラクションをするべきだと、私は思います。自主的なリトラクションは、その研究者が正常な倫理観を持っていることの証拠の一つにもなります。また、リトラクションにより、少なくともアカデミックな意味では、不正事案自体が無くなるので、その方が研究者自身や関係者にとっても安全です。(不正論文で多額の研究費を得たとかの「社会的な責任」はまた別です。) 考えれば、「コピペ即リトラクション」のルールを作るまでも無く、コピペ論文の無価値化は容易にできるはずです。現在既にネット上に挙がっているコピペ論文のリストを網羅したデータベースを作り、それを研究費の申請書やポストへの応募書類についてくる業績と照合すれば良いだけですから。そんなソフトは、簡単に作れるはず。その照合に引っ掛かれば、その申請・応募は間違いなく却下されるでしょう。そうなると、そんな危険のある論文を業績欄に入れることは怖くてできません。コピペ論文は、自動的に無価値になります。既にやっている機関だって、あるはずです。あるいは、文科省や学術振興会に近い人が、そのようなデータベースを持っている、とつぶやくだけで十分に大きな効果が得られるかもしれません。JSPSやJSTは直ぐにでもやるべきだと思います。(もうやっているかもしれませんが。)あるいは、NPOがやっても良いかも。一人でもできるでしょう。 解説+α部分文責:分子生物学会年会長・近藤滋

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しんがり研究

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JST戦略創造研究推進事業の中で、最も成功したと評価されているのは「さきがけ」であろう。先頭を切って敵に突進する勇者である「さきがけ」は、まさに若い研究者の研究助成にぴったりのネーミングである。しかし、もちろん、戦(いくさ)はさきがけ武者だけでは成り立たない。そこでERATO, CRESTが戦闘部隊の本隊として存在するのであるが、実はこれだけでは大事な要素が欠けているのだ。そう、殿(しんがり)である。 殿(しんがり)とは、後退する軍の中で最後尾を担当する部隊を指す。敵の追撃を阻止し、本隊の後退を掩護することが目的の部隊である。限られた戦力で敵の追撃を食い止めなければならない最も危険な任務であるため、古来より、最も武芸・人格に優れた武将が務める大役とされてきた。軍隊には無くてはならない存在だ。現代の研究者社会にも、さきがけ同様、しんがりが必要ではないだろうか。 JSTさきがけは、40歳くらいまでの独立前か、独立直後の個人研究を援助する。期間は3年間、予算規模は年あたり千数百万である。一方、JSTしんがりは、期間、規模はさきがけと同じ。違うのは年齢制限が60歳以上という事だけ。 大学の教官、特に教授になると、「教育の義務、組織のマネージメント、評価、学会の仕事、などなどが山のようにあり、研究の時間がほとんど無い」という。また、大きな研究グループの長になっても、研究費の調達と多数いる研究員の指導に神経をすり減らす。実際、ほとんどの先生はいつも忙しくしており、かわいそうなほどである。彼らが決まって懐かしそうに話すのは、100%の時間を研究に使えたPD大学院生やPD時代の事だ。「PDをもう一度やりたい」「PDが一番良い時代だった」と飲み会で話すのを何度も聞いたことがある。よろしい、夢をかなえましょう、というのが「JSTしんがり」である。 実際、JSTしんがりは夢のような制度だ。応募者は60歳以上の教授、研究部長など。彼らは、自分で研究がしたくて、時間が欲しくてたまらない(はず)。研究人生の最後に、長年温めてきた最高のアイデアを試してみたくて仕方がない(はず)。しかし、日頃は忙しく、それに集中することができないで悩んでいる(はず)。だから、彼らを雑務から解放し、さきがけ研究者の様な立場に戻して挙げよう。当然、教授も部長もやめてもらうので、教育の義務もマネージメントも一切なし。一研究者として100%の時間を使う夢のような日々が待っているのだ。こんな素晴らしいことがあるだろうか? さきがけ研究者は独創性を求められるが、それだけを追求すると、期間中に成功できない危険もあり、そうそうぶっ飛んだことはできない。ある程度安全運転せざるを得ない。しかし、しんがりはそんなことに悩む必要はない。人生最後の大ばくちに心おきなく挑戦できる。誰もやりたがらないような、誰も信用しないような研究。でも当たれば超大あたりの研究こそがしんがり研究の真髄であり、それが競争的な環境における研究の多様性を保証するのである。まさに、殿軍そのものだ。 しんがり研究は、3年ごとの再審査さえ通れば、自分で研究ができる限り更新可能。知力と体力の続く限りいつまでもできる。唯一できないのは、大きなグループを率いてやることだけ。グループを率いてやるような研究は、もう出来上がっているのだから、誰に任せても問題なし。自分がいなくても大丈夫。ノーベル賞の対象となった研究の多くは、大グループの親分としてでは無く、若い時になされたものであることは、言うまでも無い。 と言うわけで、60歳過ぎてもアイデアがあり研究者魂にあふれた科学者であれば、必ず「しんがり」に応募するはずである。では、そのガッツの無い人達は、、、う~ん、早くやめてもらっても、特に問題無いと言うか・・・・・ text by「元さきがけ研究者」

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安定性と競争性を担保する 日本版テニュアトラック制度の提案

20130924

【概要】 今日の日本の研究者社会では、常勤(任期なしポスト)と非常勤(任期付ポスト)の待遇の差が大きすぎることが原因となり、 研究力を持つ若手が参入しなくなったり、ポストをめぐる過度の競争のために生産性が削がれてしまっているなどの問題が生じています。この状況を解決するため、最低限の給与や身分の安定が保証されると同時に競争性も担保する新たな「日本版テニュアトラック制度」を提案します。以下にその概要を示します。 ・安定した身分とアドオン給与:日本版テニュアトラック制度(案)では、安定した身分である「任期なし常勤ポジション」に就くことが可能。基本給として一定の報酬や社会保険等が保証されている。それに加え、研究の業績・評価や、教育コマ数、各種大学業務などに連動したアドオン給与が設定されることで、競争性も担保される(図1)。 ・余程のことがない限りテニュアが取得可能:この制度では、博士号取得後、テニュア審査を行う機関に登録し、テニュア・トラックに乗る (図2)。テニュア審査に合格した場合は研究費配分機関(日本学術振興会や科学技術振興機構、新設される日本版NIHなど)にテニュアで雇用され「任期なし常勤ポジション」を取得できる。テニュア研究者はPIの下に派遣され活動するが(人件費相当分 and/or アドオン部分はPIが自分の研究費から派遣元機関に支払う)、自分で研究費を取得して「ミニPI」として独立的に活動することも可能。テニュア審査は再チャレンジが可能であり、「余程のこと」がない限り博士号取得者はテニュアを取得できる。 ・安定した研究費と連動:アドオンの主要な部分の一つが研究費の間接経費から支給されるので、「競争的研究費」の審査の透明性・公平性、さらには安定性が重要。また間接経費比率が現在より高めに設定されていることも必要。安定的な基盤的研究費のシステムについての提案については過去の記事 [安定した基盤研究費の導入を!] をご参照ください。 ・多様なキャリアパス:テニュアで雇用されている研究者は、そのポジションに留まり続けることも、既存の大学・研究機関などの常勤教職員のポジションに異動することも可能(図3)。また、研究をサポートするような業務を行うような技術員トラックや、事務系トラック、また教育を主な仕事とする教育トラックに移ることもできる(図4)。 「日本版テニュアトラック制度」提案についての詳細は以下の本文をご参照ください。お時間のない方は図の部分だけをご覧になっても概要がつかめるようになっています。下のほうにアンケートがありますので、ぜひご回答いただけますと幸いです。  *本文は少し長いので、近々、本文は別ページに移動させる予定です(アンケートの回答やご意見の書き込みをしやすくするため)。 【本文】 常勤・非常勤の大きな格差 国の科学技術の発展にとって、高い適正を有する人材を大学・研究機関に確保することは最も重要な課題の一つであり、そのためには適切な人事の制度設計は欠かせないでしょう。しかしながら、我が国の大学・研究機関における人事制度は様々な深刻な問題を抱えているのが現状であり、このため、若手の「博士離れ」や日本発の論文数減少 [豊田長康先生のブログ 「あまりにも異常な日本の論文数のカーブ」を参照ください] などといった状況を生んでいると考えられます。 このうち、最も大きな問題の一つが、ポスドク、ポスト・ポスドク(特任教官など)など非常勤の職が若手・中堅研究者の中心的なポジションになっていることです。常勤だが、再任なしの任期付き教員というポジションもあるようで、これも非常勤に近いポジションであると考えられるのではないでしょうか。従来は日本では研究者の雇用は若手・中堅研究者であっても常勤が主なものでした。しかし、ポスドク一万人計画が実行され博士の絶対数が急増し、一方で、少子化に伴い研究者の常勤ポジションがほとんど増えないという状況が生まれてしまいました。僅かな数の常勤ポジションに対し、多数の博士が殺到し、そこに入るための道筋(トラック)が異常なレベルの競争的なものになってしまったわけです。 格差がもたらす研究力の低下 研究者社会では、常勤と非常勤の待遇の差が大きすぎます。この格差が日本の研究力にもたらす大きなマイナス点が少なくとも2点あると思われます。 1. 研究力を持つ若手が参入しなくなる 常勤と非常勤の待遇の差が大きいのは、日本では研究者社会だけではないかもしれません。しかし、研究者社会では、常勤ポストは博士号取得者の数に対して極めて僅かしかなく、それをめぐる競争があまりにも激しいという特殊な状況があります(これをここで再度説明する必要はないでしょう)。また、「競争が激しい」だけであればまだ良いかもしれません。自分の実力に自信を持つ若手は参入するでしょう。問題なのは、これに加え、日本の研究業界では、競争で勝ち残れなかった場合に「つぶしがきかない(他の業界に就職口が少ない)」ということと、「競争」に透明性・公平性が欠けているということもあります。つまり、研究成果をいくらあげていても必ずしも競争に勝って常勤ポジションを得ることができるとは限らないし、それを得ることができなかった場合に払わなければいけない犠牲はあまりにも大きいわけです。 このため、研究の適性が高い若手でも、そのようなリスクを負いたくない場合は、別の業種を選んでしまうことが多くなっていると考えられます。 日本人には、そもそも安定思考が強い人々が多いのではないでしょうか。日本は正社員や(正規の)公務員であることが非常に高い価値を持つ社会であり、非常勤では住宅ローンを組むのも困難でしょうし、結婚して家族を持つことにさえ支障が出てしまうことがあるのです。この4月に「改正労働契約法」が施行され、大学で非常勤講師を原則5年で契約を打ち切って「雇い止め」にする動きも生じつつ有り、この研究者コミュニティ内の格差はさらに拡大しそうな気配になってきています(榎木先生の記事とそこでの議論もご参照ください)。 こういう状況を放置すれば、研究の適性が高い若手はますます他の業界へ逃げてしまい、日本の研究力低下が加速してしまうのは間違いないではないでしょうか。 2. 「競争」のために生産性が削がれてしまっている 本来、適度な「競争」は全体の生産性を上げることが期待されます。「競争」のために研究の生産性が削がれてしまっているとは、どういうことでしょうか? 日本の研究者社会では、非常勤(プラス再任なしの任期制常勤職員)の間には上述のように激しい競争が存在します。この「競争」が真の生産性を上げることに繋がっていない要因には以下のようなものがあるかと思います。一つは、短期間で華々しい成果をあげなければいけないため、地に足の着いた地味ではあるが重要な研究や、ハイリスク・ハイリターンの長期に渡る努力が必要な研究は極めて行いにくい環境にあることです。真にイノベーションを生むような研究はこの種の研究が多いので、この「競争」の仕組みはそれを強力に阻害していると言えるでしょう。二つ目は、競争に勝ち残るための「華々しい成果」というのは事実上ハイインパクトなジャーナルへの掲載、ということになっていることが多いことです。これは、現在流行りのトピックを選びがちになったり、捏造を引き起こす要因になったりするマイナスがあります。またハイインパクトなジャーナルへの掲載するには大量のデータを準備する必要もあるので、研究成果が世にでるのを遅延させてしまう、という側面もあります。研究評価に関するサンフランシスコ宣言(The San Francisco Declaration on Research Assessment; DORA)においても、ジャーナルのインパクトファクターを個々の研究論文、研究者の評価に用いることが厳しく批判されていますが、日本では有効な対策が十分に議論されておらず、ハイインパクトなジャーナル至上主義が顕著であり、研究の生産性を削いでいるのは間違いないでしょう。三つ目は、比較的高額の研究費を要するような分野の研究者は、研究費の申請をたくさん行わなければいけないことです。常に応募をし続けなければならず疲弊します。申請書や報告書を書くのに時間と労力が使われてしまい、真の研究に割くべきリソースが大幅にムダに費やされてしまいます。これは、Science Talks でのインタビューでも述べた通りです。 さらには、3〜5年の研究費で雇用されているポスドクや、任期のある研究者(テニュア・トラックも含む)などは、短い期間で研究の場を異動せざるを得なくなってしまうことが多々あるというような問題もあります。異動する際は、引っ越し&新たな場所でのセットアップという作業をしなければなりませんし、ポスドクであれば研究テーマも代えざるを得ないことが多いでしょう。これらの要因によって、研究者が研究に集中することが妨げられており、研究の進展が阻害されています。 一方で、激しい「競争」にさらされているのは、主に非常勤の研究者でしかないということもあります。常勤職員の間では(少なくとも待遇的な面では)競争が弱く一旦職を得てしまえば定年まで安泰で、給与は年功序列で定年まで毎年少しずつ上がっていきます。極端な話、研究などしていなくても職の安定性や報酬の観点から言えば全く問題がありません。つまり、「厳しい競争」というのは「過度な競争」という意味だけではなく、非常勤の研究者と一部の研究志向的な常勤研究者に限定されているという「いびつな競争」になってしまっていることでもあり、全体の生産性をあげるような仕組みになっていません。 要は、現状では、むやみに研究者間の競争が厳しいだけで生産性をむしろ削いでいる状態であり、適度な競争がうまく生産性に結びつくようなマネジメントが全くできていない、というのが現状ではないでしょうか。なぜそのような基本的なマネジメントもできないのか、ということはとても不思議なことであり、それも大きなトピックではあるのですが、その議論はまた追って別のところでできればと思います。 安定性と競争性を担保する人事制度 では、どうすればよいか?ということについての具体案を提案したいと思います。 一つは、博士号を取得し、ある期間に一定の実績を上げることができた研究者は、原則的に任期なし常勤ポジション(テニュア)が与えられるような仕組みにすることです。研究者のセーフティネットを設けて、新規参入の壁を低くし、地に足のついた長期的研究をサポートします。 「任期なし常勤ポジション」といっても、現状のように年功序列で毎年給与が上がっていくようなものでなく、基本的人権が保証されるレベル、プラスαくらいの基本給が保証され、そこに業績や評価に連動したアドオン給与が設定されるような具合です(図1)。 アドオン給与は、研究者自身が取得した研究費の間接経費、行う授業のコマ数が主要なものとなります。各種委員会での活動実績、大学の広報活動、その他の活動なども考慮されアドオンされるようにします。また、業務時間外での副業も自由度を高め、産学連携が行いやすいようにしておきます。 このようにすることによって、テニュアを取得したあとであっても、研究費が取得できない場合や、評価が低い場合は、総収入は低くなることになります。しかし、(最低限の仕事をしている限りは)ベースは保証され、路頭に迷うことはなくなります。研究能力が落ちてきても、多くの教育コマ数をこなしたり、委員会の委員を務めたりすれば、アドオン部分も減らさなくてすむわけです。 以上が概要ですが、改正労働法に対応する必要もありますので、もう少し詳細な案も考えてみました(これは他にもいろいろありうると思いますが、単なる一案としてご覧ください)。 まず、博士号取得後、テニュア審査機関のようなところに登録し、テニュア・トラックに乗ります (図2)。 雇用としては、この間、テニュアが取得されるまでは従来型の機関所属のポスドクと同様な方式にしておきます(外部資金などで機関に雇用される)。一定期間経過後、テニュア審査が行われて合否が判定がなされます。合格した場合は中央の研究費配分機関(日本学術振興会や科学技術振興機構、新設される日本版NIHなど)にテニュアで雇用され、上記のような任期なし常勤ポジションを取得できることになります。不合格の場合は、改正労働法がありますので機関は異動しなければいけませんが、何回か再チャレンジができるようにしておきます。 研究費配分機関はこのようなテニュア研究者を、その時の状況に合わせてフレキシブルに大学・研究機関の研究室主催者(Principal Investigator; PI)の研究室に派遣します。基本的には、テニュア研究者自身がより良い条件(より高いアドオンやより良い研究環境など)を出してくれるPIを自分でみつけます。PIは自分の研究費から派遣元の独法へ人件費相当の費用を支払うとともに、間接経費からその研究者にアドオンを支払います。自分をホストしてくれるPIが見つからない場合は、派遣元の独法が仕事を探して斡旋します。 テニュア研究者は、スペースをホストしてくれる大学・研究機関が有る場合、自分で研究費を取得してミニPIとして活動することも可能です(自分の間接経費からアドオンを支払う)。 研究費配分機関にテニュアで雇用されている研究者は、従来型の大学・研究機関などの常勤教職員のポジションが見つかればそこに異動しても良いが、そういうものが見つからなければ見つからないで、一生、そのポジションにいることも可能です(図3)。 従来型の大学・研究機関などの常勤教職員の待遇については、すぐに現状を変えるのは困難かと思われますが、徐々に同様な仕組みを導入していくことを促すことがよいのではないかと思います。つまり、基本給はある程度抑えておき、間接経費によるアドオン部分の比重を増していくことです。大学教員の年棒制導入の話も出ているようですが[日経新聞記事 「国立大教員1万人に年俸制導入 文科省、15年度末までに」; 第1回 産業競争力会議 雇用・人材分科会 配布資料5−1(pdf)]、そのような場合でもこのような仕組みは考慮されるとよいのではないでしょうか。 また、博士号取得者は何も研究そのものをやる必要はないわけで、研究をサポートするような技術員トラック、事務系トラックや、教育トラックというものに入ることもできるようにしておきます(中核となる業務が異なるだけで、待遇は同様な仕組み;図4)。 研究費の仕組み改善もセットで 上記のような仕組みを導入する場合、研究費の間接経費がアドオンの額を大きく左右するようになります。これには、現状で反発が予想されます。というのは、上に述べたように、現状の「競争的研究費」が透明性・公平性にかけること、「競争的研究費」の取得がギャンブル的になっており変動がオールオアナンのようになっていて安定性に欠けるからです。報酬におけるアドオンの比重を高くするならば、「競争的研究費」が透明性・公平性は必須であり、「出来レース」のようなことはなんとしても排除される必要があります。また、過去の実績をより適切に反映しつつ額がゆるやかに変動するようなものでなければならないでしょう。つまり、上記のような人事の仕組みは、研究費のあり方の改善と一体化して行われるべきでしょう。「過去の実績に連動して安定して額が変動するような研究費」については、以前、提案しまして、これと合わせて行ったアンケート [安定した基盤研究費の導入を!] でも9割以上の方々のご支持をいただいています。 研究費の仕組みについての議論もこちらで歓迎いたします。 研究者コミュニティからの提案を 以上のような主旨の案は、学会の懇親会やネット上でことあるごとに提案しており、ご賛同をいただくことが多々あります。そのように多くの賛同が得られるような案でもなんらかのアクションなしでは、実現にいたりません。また、要は、現在よりも研究者が研究にしっかり集中できるようにし、限られた資源が有効に使われるような仕組みに改善することが大切で、この案はそれを目的とした一つの可能性にすぎません。ぜひ、こういった場で議論を十分に行なって案を良いものにし、研究者コミュニティからの案として、行政に関わる方々に提示していく必要があるように思います。提案には、客観的エビデンスも必要ですので、議論にご参加いただかない方でも、アンケートにご回答いただけますと幸いです。 藤田保健衛生大学・教授・宮川 剛 (この意見は筆者が所属する組織の意見を反映しているものではありません) . . アンケート ここで提案されている新たな日本版テニュアトラック制度の案では、最低限の報酬や身分の安定が保証される一方で、研究業績や評価、教育コマ数やこなした各種大学業務などに連動したアドオン給与の設定により競争性も担保されます。具体的な「最低限の報酬」やアドオンの額、実績評価の方法については別途検討することとし、選択肢を選ぶ上で考慮に入れないでください。 . .  

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ガチ議論本番のイベントについて

20130918

分子生物学会年会まで3カ月を切りました。本番のガチ議論イベントについてご説明させていただくと共に、当日までに話し合っておきたいことをいくつか提示したいと思います。 まず、期日ですが、12月5日の午後5時(くらい)から2時間半、神戸国際会議場内の500人くらい入れるホールで行う予定です。学会内のイベントなので、参加者は基本的に分子生物学会年会への参加者に限られます。しかし、話題提供者(以下で説明)になった方はその限りではありません。 イベントの構成は、<現役研究者>が「日本の生命科学研究はどうすれば良くなるか」についての改革案(アイデア)を発表し、それぞれについて、<実際に政策を左右する可能性のある立場の人>を加えて議論する、というものです。ゲスト参加者は、総合科学技術会議、文科省、JSTから各1名づつの参加を得られるよう現在交渉中です。内容的に、先行イベントの「ScienceTalks(サイエンストークス)ニッポンの研究力を考えるシンポジウム」とかなり近いものになると考えていただいて結構です。サイエンストークスで詰め切れなかった重要なテーマがあれば、それを引き継ぐことも考えています。 議論のテーマは、やはり研究者にとっての最大の問題である、 1:研究費の配分 2:(若手の)ポスト問題 の2つを考えていますが、他に、@@@@について議論するべきだ、という意見も受け付けますので、今後のガチ議論サイトに投稿をお願いします。 今後のこのサイトにおける議論では、それぞれのテーマに対し、現状の問題点を指摘するだけでなく、「~~~~のように改善するべきである」という改善策が盛り込まれることを希望します。それぞれの案に対しサイトでの議論を詰めていくことで、実際に政策を決める権限のある人たちに提示できるものに磨いていければ素晴らしいです。直前まで議論を続けてから、当日にプレゼンするテーマと、プレゼンターを選びます。プレゼンターの役は、ガチ議論スタッフではなく、改善案を書き込んだ人にお願いしたいと考えます。プレゼンターとその案の作成にかかわって頂いた人の数名は、話題提供者として学会参加者でなくても、入場できるように計らいます。 それでは、皆さんの熱い議論とアイデアを期待しています。 ガチ議論イベントの進め方等に対するご意見なども募集しております。コメントしていただくか、スタッフ宛にメールで連絡をいただければと思います。 . 【ご注意】 (この2カ月ほど議論の中心であった研究不正問題は、「研究不正フォーラム」の方で取り上げるので、ガチ議論イベントのテーマとはしません。もちろん、このサイトにて議論を続けていただき、フォーラムに活かしたいと思っています。)

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ScienceTalks ニッポンの研究力を考えるシンポジウム ~未来のために今、研究費をどう使うか~

20130916b

ScienceTalks(サイエンストークス)から「日本の科学を考える」ガチ議論サイトの皆様へお知らせです。 Science Talksは、「ニッポンの研究力、このままではいけない!」と日々感じている研究者、政策関係者、大学経営者、企業家などが一同に会し、立場を超えて日本の研究力を底上げするためのアイディアを出し合うディスカッションプラットフォームです。科学コミュニケーションサポートを行うカクタス・コミュニケーションズ(英文校正エディテージ)が科学新聞と共同で今年の8月に運営を開始しました。物質・材料研究機構の岸 輝雄委員長をはじめ、ガチ議論の宮川 剛先生や、研究や科学政策にかかわる多彩なメンバーにより「ScienceTalksニッポンの研究力を考える委員会」を立ち上げました。同委員会のもと、「ニッポンの研究力」をもりあげるための問題提起を行っていく予定です。 最初の企画として、第1回シンポジウム、「ScienceTalks(サイエンストークス)ニッポンの研究力を考えるシンポジウム~未来のために今、研究費をどう使うか~」を10月19日(土)に東京工業大学・くらまえホールにて開催します。第1回の今回は、研究費の額と分配、研究評価の問題を徹底的に取り上げて議論をします。 そもそも、研究をはじめる前に先立つもの、それがなければ話が始まらないもの、それはやはりお金の問題です。研究費はいわば研究アウトプットへの先行投資。インプットあってのアウトプットです。日本の研究費の総額は年々増加しています。にもかかわらず、日本の研究者のみなさんの多くは、研究費が足りなくてやりたい研究ができなくて困っています。一方で、大学や研究所単位で巨額の研究費をつけた結果として、研究費の無駄遣いや不正使用の問題も次々に出ています。このアンバランスの原因は何なのか?果たして日本の研究費の総額はそもそも足りているのか?バランスよくちゃんと配分されているのか?だいたい科研費の研究評価はちゃんとした指標に基づいて実力のある研究者に届いているのか?投資した分だけ、きちんと研究成果が社会に還元されるようなシステムにするにはどうしたらよいのか? 「ニッポンの研究力を上げるためには研究費の問題を解決するしかない!」と、シンポジウムには5人の研究者・大学経営者と、現在の研究費と配分制度を決めている文科省・財務省の方々にスピーカーとしてご参加いただきます。 このイベントは識者の方々の意見を聞くだけの場ではありません。会場やライブストリーム中継で聴く一般の研究者のみなさんと問題意識を共有して、幅広くたくさんの方の意見を集めるための参加型のイベントとなります。会場で、オンライン上で、みなさんの意見を聞かせてください。「ガチ議論」とのシナジーで議論を盛り上げていきますので、「ガチ議論」サイトをご利用の皆様のご参加もお待ちしています。本ページのコメント欄に寄せられた皆様からのご意見も企画や当日の議論などに反映できるよう検討したいと思います。 当日のイベントでは、おなじみ宮川 剛先生、元三重大学学長 豊田 長康氏、熊本大学学長 谷口 功氏、中部大学理事長兼総長 飯吉 厚夫氏、文部科学省研究振興局 菱山 豊氏、財務省国際局開発政策課長 神田 眞人氏が登壇。登壇者のみなさんとのブレインストーミングや議論にたっぷり時間をとってありますので、ぜひ研究現場の問題意識や疑問を投げかけてください。公式サイトでは事前に登壇者インタビューを掲載しております。記事コメント欄、Facebook、Twitter上で率直なご意見、コメントお待ちしています。 公式サイト: www.sciencetalks.org Facebook: www.facebook.com/ScienceTalksJP Twitter: www.twitter.com/ScienceTalks_JP ScienceTalks(サイエンストークス)委員会 広報担当 加納 愛

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<緊急>研究不正問題のまとめのお願い

20130826

文部科学省ではこの8月に「研究不正などに関するタスクフォース」を立ち上げています。このチームでは、福井副大臣を座長に文科省内の大学運営や研究に関わる部署の責任者ら6人で構成され、問題となっている事案の調査分析を行い、来月中(9月)をめどに研究不正への対策を行う、とされています。 http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1338304.htm この中間取りまとめを下敷きにして、来年度予算に間に合うように不正対策が作られるとなると、もう時間がありません。このサイトは、何人かの官僚の方や、影響力のある方も見てくれてはいますが、コメントの数があまりにも多い上に纏まっていないので、このままでは不正対策議論のためのデータとしては使えないでしょう。ですから、早急に纏めを行いたいと考えます。(ここでの議論が終わりにするわけではありません。) もちろん、意見を集約するところまで行っていませんので、サイト全体としてひとつの提案はできません。しかし、議論を通じて皆さんの頭には具体案ができ上ってきていると思います。ですから、それをコメント欄にアップしていただけるようお願いします。また、いろいろな案を比較しやすいように、以下のフォーマットに従ってください。 1)字数は最大1000字 2)ORI(又はそれに準ずる機関)の設立を含む場合、(あ)規模、(い)構成員の条件、(う)業務内容、がおおよそでも良いから解るように 3)その対策により、現状の問題点(告発の困難さ、調査結果が出てこない、トップが被疑者だと公正な調査にならない、結果が出ても処分されない)がどのように改善されるかが解るように それぞれの対策案に対し、アップした以外の人は、replyで良い点、悪い点を指摘してください。対策案をアップした人は、指摘をうまく盛り込んで、edit機能を使って対策案をより良く改定してください。その際、新しいコメントとして対策案をアップするのではなく必ずedit機能を使い、元の案を変更してください。 自分の意見とかなり近い案が既にある場合は、新しい対策案をアップするのでなく、既にある案に対し意見を述べることで、協力して洗練されたものにしてくれるとありがたいです。このedit機能を使うためには、対策案の投稿者は匿名ではできません。しかし、twitterの捨てアカウントを取るだけでアカウント付きの投稿は可能です。 理想としては、皆さんの作った対策案のまとめが、タスクフォースの会議の基本資料になってほしいと思っています。9月上旬に、でき上った対策案のリスト文科省に持って行き資料としてくれるように頼んできます。残念ながら、われわれガチ議論スタッフができるのはそこまでです。しかし、現場の研究者が公開で話し合ってまとめた記録です。その中に、実現可能で良いものがあれば、必ず何らかの影響力はあると信じます。

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研究不正問題2 まっとうなデータと不正の境界はどこに?

20130731a

コピペは言語道断ですが、世の中にはグレー領域のデータも存在します。このスレッドでは、どこからが許されない捏造になるのかを議論します。

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研究不正問題3 公正局の立ち上げは可能か、本当に機能するのか?

20130731b

研究不正に対応するシステムとして 「公正局」の設立の必要性が叫ばれる一方で、それが本当に機能するのか、あるいは負の効果の方が大きいのでは、という危惧があります。このスレッドでは、 公正局について、おおざっぱにではなく、もっと突っ込んで具体的に議論します。

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捏造問題にもっと怒りを

062513

この数年、論文不正問題が研究者社会に大きな影を投げかけています。 これまで分子生物学会は、「若手教育シンポ」という枠組みで、若手研究者が捏造に手を染めることの無いように教育をしてきたつもりでした。しかし、そのシンポの講演者であり、また研究倫理委員会の若手教育問題ワーキンググループの委員でもあった有力研究者自身が捏造問題の渦中の人となってしまったことで、これまでの認識を改める必要に迫られています。そのため、今年の年会における「捏造問題フォーラム」は、これまでの様な「若手の問題」というスタンスではなく、より真摯に捏造問題に向き合い、どうすれば捏造を少しでも減らせるかを考える会にすることを目指しています。具体的には、最大6つのセッションを用意し、それぞれに捏造問題の関係者(ジャーナル、学会、マスコミ、研究資金供給元、ご本人?、捏造発見者、?、??)を招いて、それぞれの立場で何をすることが捏造の防止・減少につながるかを話し合って行く、そしてそれをサイエンスライターに傍聴してもらい客観的な立場から記録に残す、という計画です。 先週末に、学会全ての会員に、学会本部からのアンケートが送られました。フォーラム当日に話し合うべき論点、招きたい関係各機関の候補などについて、広く学会員の意見を取り入れるためです。アンケート結果や、フォーラムのより詳しい内容などは、今後学会HP等で公開されていくと思われますので、ご注目ください。 この捏造問題フォーラムを主催するのは分子生物学会の本体(理事会)です。一方、当ガチ議論HPは、あくまでも2013年会の準備委員会による企画であり、形式的には関係が無く、したがって、正式な連携等は全くしていません。ですが、我々(ガチ議論スタッフ)は、この重要な問題に関する議論はあらゆる場所で行われるべきだ、と考えます。学会本体は、この分野の重鎮をそろえた理事会が運営しており、当然、その動きは、慎重かつ重厚かつ鈍重です。それは如何ともしがたいし、むしろそうあるべきでしょう。しかし、そのために、本部が運営する議論スペースでは、あまり過激な発言とかは出てきそうにありません。本音の部分や、大きな波紋を呼びそうな提案が出てくる可能性は間違いなく減るでしょう。捏造問題の様な、身近でかつ重大な問題ならなおさらです。 そこを、ガチ議論HPが相補できるのでは、と期待します。このガチ議論は、(形式的には)今年限定の年会準備のためのスタッフが運営する「臨時的な議論の場」にすぎません。匿名のコメントも可です。まあ、2ちゃんとは言いませんが、かなり軽くて自由です。しかし、議論の価値は、それがなされた場所ではなく、生まれたアイデアによって決まるものです。ここで、フリーに活発な議論が起こり、実質的かつ有用なアイデアが生まれれば、それを理事会メンバーがフォーラムに生かすことになるでしょう。(といいますか、近藤は分子生物学会の理事でもありますので、そうなるように努力します。) ということで、これからしばらくこのガチ議論サイトで、論文捏造問題について議論をしたいと考えています。いろいろな論点があると思いますが、まずは皆さん、ご自身のこの問題に対するおおざっぱな考えと言いますか、一番主張したいことをコメント欄に投稿してください。ある程度集まったところで、いくつかの論点をピックアップし、さらに議論を深め、最終的には何か具体的な改善策へとつながるアイデアを練り上げて行きたいと希望します。 それでは言い出しっぺとして一言。 捏造問題に対処する時に、我々研究者が忘れてはならないのは「怒りを表現すること」ではないだろうか。 拙速な反応が禁物であることは重々承知している。冤罪だったら大ごとだし、捏造が事実だったとしても、誰が悪いのかを明らかにすることは至難の業だ。また、事が広まれば大学、研究所の評判にも大きく影響するし、訴訟がちらついたりすると、情報の開示や処分も速やかに決めることは難しくなる。だから、もし、自分所属する場所で問題が起きたら、感情的なものは抑えて、できるだけ慎重に進めようとするに違いない。あるいは、役所や報道が動き出すのを恐れて、できるだけ騒ぎが広がらないように、沈静化するように努めるだろうと思う。また、捏造問題は構造的な性質(PDの就職難でPIに逆らいづらい、ラボの巨大化と分業化など)を取り上げ、個々の捏造問題よりも、そのような一般的な問題の解決を目指すべきだと訴えるかもしれない。 しかし、そうした方向の努力は、ローカルには間違っていないかもしれないが、全体(日本の科学界)から見れば、問題を深刻化させる可能性が高い。捏造が起きても「騒がない」事が普通になると、しまいには無関心が蔓延し、それが、さらにハードルを下げることで、新たな捏造が生まれるかもしれない。 さらに危惧するのは、一般社会が、「科学者社会は、自身でこの問題に対処する意志も能力も無い」と判断しかねないことだ。そうなると、上の方から現実を無視した規制が降ってくる事になる。そうなる前に、科学者社会自身による現実的で実行力のある方策を、なんとか作らなければならないが、現時点で、そのような動きはほとんど見られない(これについては尾崎美和子さんの本サイトでのご意見も参照してください)。問題の一つは、ほとんどの科学者が自分の研究以外の事には関わりたくないと思う人種であることだ。これは、自分もそうなので責めることはできなないが、ぐずぐずしていると最悪の事態に陥る可能性がある。危険である。 論文の捏造は、倫理的な問題を超えて、科学を否定する行為である。さらに、我々が日々行っている研究活動への侮辱でもある。大型グラントの獲得にコピペ論文業績が使われるというのは、トップでゴールインしたマラソンランナーが、自転車で走っていたようなモノだ。即刻、正しい処置がくだされなければ、競技そのものの存在意義が消滅する。 だから、怒っていいのだ、いや怒らねばならない。怒り続けるべきである。捏造問題は、いろいろと危険な要素を含むから、多くの人は口にするのを避けたがる。だが、この問題に対しての科学者の共通意識は、怒りでなくてはいけない。それを常に確認することが、次の捏造の抑止力にも(ある程度は)なるだろうし、科学者社会に「なんとかしなければ」という機運を生み出すはずである。 近藤 滋

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「文科省お役人からの回答」にネット上でコメントをくださった皆さんへ

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「文科省お役人からの回答」と「文科省お役人との会合・議事録」に対して、Twitter、はてなブックマーク上などでいろいろと反響をいただきました。批判的なコメントも少なからずいただきました。ご批判は大きく二つの内容についてのものが多いように見受けられました。 一つは、差し障りのない内容しか引き出せていないのでは、というものでした。コメントは以下の通りです。 「役所に問い合わせるとどうなるか、聞いてた通りの内容」 「完膚無きまでに丸め込まれとる(^^;)」 「どっかで聞いたような答弁にしか見えない」 「「被弾」という単語が私の頭をよぎった。昨日の復興庁役人のツイートに影響されてんなあ。」 二つ目は、文科省サイドとの距離・関わり方に問題があるのでは、というニュアンスものでした。そもそも意思疎通が取れていないというご意見をはじめ、近づきすぎてしまっているとするもの、敵対してしまっているというものなどです。以下に実際のコメントの一部を引用します。 「ピントの外れ具合がなんとも…」 「ざっと読んだ感想は「ああすれちがい」。」 「官僚と仲良くなって意見を通そう、というやり方は効率的に見えて、結局は官僚の描いた絵の上でしか動けなくなるという。 」 「総じて問題の押し付け合いにしか見えないが…」 「相手を「お役人」と小馬鹿にし、共に問題を解決する同志ではなく、敵として認識するという、研究者の視点が変わらない限り、問題は一切、解決しないだろう。役人側も、自分を嫌ってる者のために働く気になどなれん。」 これらについて、ガチ議論スタッフ側の考えを述べさせていただきます。 行われたプレ企画での議論自体は、文字通り忌憚のない本音ベースのものでした(この点については、こちらの議事録のほうをご参照ください)。官僚と研究者の視点や考え方の違いに感心(?!)しつつも、相互理解は深まりました。ガチ議論スタッフ4名は間違いなくそう感じましたし、おそらくほぼすべての参加者の共通認識ではないかと思われます。研究者や官僚その他が協力して今後よい仕組みを作っていきたいというエネルギーにあふれた会でした。もし参加者の中にお知り合いがいたら、このあたり本当かどうか、ぜひ、聞いてみてください。 しかしながら、公開すると差し支えがありそうなところを公開版から削りましたので、無難な「答弁」のようなものになってしまったのは事実です。核心的な部分についての意見は、概してそういうものになりがちであったので、それらを削ってしまったことによりピントが外れた印象になってしまったということもあるかと思われます。これらの点については、お役所側の方々も実名で発言をされており、失言がもしあればたいへんなことになりかねないので、仕方がない部分があります。昨今のネットでの発言の取り上げられ方を見ますと、実名での発言の公開には慎重にならざるを得ない部分があることは、ご理解いただけるのではないでしょうか。 いただいたコメントを見ながら、先ほどガチ議論スタッフ4名で議論しました。今回の企画を通じて見えてきたことについて、ガチ議論スタッフが皆さまに対して発したいメッセージがいくつかあるので、それをもう少し明確化してお伝えすべきでしょうということになりました。 メッセージとしては、以下のようなものがあります。 ・官僚の方々も、日本の科学を良くしたいと真剣に思っているのは間違いなく、そのためにいろいろなアイデアを欲している。文科省、国という「お上」が、はっきりした独自の意思の下に動いていると思ってしまいがちであるが、実際は必ずしもそうではなく、外部からの意見に依存して物事が決まって行くことが多い。匿名でもいいので、こういう場にどんどんアイデアを出していくべきである。彼らはこういうものも一応見ていて何らかの参考にする場合もある。 ・とは言っても、やはり、個人がアイデアを出すだけでなくそれらをコミュニティで十分揉んで集約し、国に発信していくような仕組みが必要である。国は、そういう集約された意見しか実現しようとしてくれないし、仮に官僚個人が実現したいと思ってくれても、何らかの裏付け(コミュニティとしてまとめられたものであるという裏付けとか、アンケートの数値とか)がないと正式な参考資料として用いたり、それらの意見をもとに何かを進めるのは困難である。 ・現状では、若手も含めた一般研究者の意見を集約して国に対して発信する仕組みが無い。結果、霞ヶ関に日常的に出入りされている一部の高名な先生方や国会議員さんの思いつきのようなものだけで、十分な議論を踏まえないまま、いろいろなことが進んでしまうのが問題(例えば、ポスドク1万人計画、大型国家プロジェクト、日本版NIH、(今の)ポスドク倍増計画など)。 ・一般研究者がアイデアや意見を出して、それらを集約していくことができるような仕組みが必要。ネット時代では、バーチャルな仕組みでも十分機能するはずで(例えばこのサイトのようなもの)、そういうものをぜひ作りましょう。 ・現在の大学の運営や改革は、大学の裁量にまかされている部分が大きい。一方で、大学の運営を担っている層の多くの方々、現状維持で十分満足という環境・待遇をお持ちの方々にとっては、20年、30年先のことまで考えた改革をしようというモチベーションを持つことは容易ではないのではないか。従って、20年、30年後の日本の科学や日本そのもののことを真剣に考えることのできる人々、そのような未来に利害関係を持ちうる人々が中心になって、グランドデザイン、理想像のようなものをゼロベースで考えてみるようなことも重要なのではないか。 ということで、皆さんからの忌憚のないご意見、アイデアなど今後もぜひよろしくお願いします! ガチ議論スタッフ一同

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