【帰ってきた】ガチ議論
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20130924

安定性と競争性を担保する 日本版テニュアトラック制度の提案

ツイッターまとめ
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【概要】
今日の日本の研究者社会では、常勤(任期なしポスト)と非常勤(任期付ポスト)の待遇の差が大きすぎることが原因となり、 研究力を持つ若手が参入しなくなったり、ポストをめぐる過度の競争のために生産性が削がれてしまっているなどの問題が生じています。この状況を解決するため、最低限の給与や身分の安定が保証されると同時に競争性も担保する新たな「日本版テニュアトラック制度」を提案します。以下にその概要を示します。

・安定した身分とアドオン給与:日本版テニュアトラック制度(案)では、安定した身分である「任期なし常勤ポジション」に就くことが可能。基本給として一定の報酬や社会保険等が保証されている。それに加え、研究の業績・評価や、教育コマ数、各種大学業務などに連動したアドオン給与が設定されることで、競争性も担保される(図1)。
・余程のことがない限りテニュアが取得可能:この制度では、博士号取得後、テニュア審査を行う機関に登録し、テニュア・トラックに乗る (図2)。テニュア審査に合格した場合は研究費配分機関(日本学術振興会や科学技術振興機構、新設される日本版NIHなど)にテニュアで雇用され「任期なし常勤ポジション」を取得できる。テニュア研究者はPIの下に派遣され活動するが(人件費相当分 and/or アドオン部分はPIが自分の研究費から派遣元機関に支払う)、自分で研究費を取得して「ミニPI」として独立的に活動することも可能。テニュア審査は再チャレンジが可能であり、「余程のこと」がない限り博士号取得者はテニュアを取得できる。
・安定した研究費と連動:アドオンの主要な部分の一つが研究費の間接経費から支給されるので、「競争的研究費」の審査の透明性・公平性、さらには安定性が重要。また間接経費比率が現在より高めに設定されていることも必要。安定的な基盤的研究費のシステムについての提案については過去の記事 [安定した基盤研究費の導入を!] をご参照ください。
・多様なキャリアパス:テニュアで雇用されている研究者は、そのポジションに留まり続けることも、既存の大学・研究機関などの常勤教職員のポジションに異動することも可能(図3)。また、研究をサポートするような業務を行うような技術員トラックや、事務系トラック、また教育を主な仕事とする教育トラックに移ることもできる(図4)。


「日本版テニュアトラック制度」提案についての詳細は以下の本文をご参照ください。お時間のない方は図の部分だけをご覧になっても概要がつかめるようになっています。下のほうにアンケートがありますので、ぜひご回答いただけますと幸いです。 


*本文は少し長いので、近々、本文は別ページに移動させる予定です(アンケートの回答やご意見の書き込みをしやすくするため)。



【本文】
常勤・非常勤の大きな格差

国の科学技術の発展にとって、高い適正を有する人材を大学・研究機関に確保することは最も重要な課題の一つであり、そのためには適切な人事の制度設計は欠かせないでしょう。しかしながら、我が国の大学・研究機関における人事制度は様々な深刻な問題を抱えているのが現状であり、このため、若手の「博士離れ」や日本発の論文数減少 [豊田長康先生のブログ 「あまりにも異常な日本の論文数のカーブ」を参照ください] などといった状況を生んでいると考えられます。
このうち、最も大きな問題の一つが、ポスドク、ポスト・ポスドク(特任教官など)など非常勤の職が若手・中堅研究者の中心的なポジションになっていることです。常勤だが、再任なしの任期付き教員というポジションもあるようで、これも非常勤に近いポジションであると考えられるのではないでしょうか。従来は日本では研究者の雇用は若手・中堅研究者であっても常勤が主なものでした。しかし、ポスドク一万人計画が実行され博士の絶対数が急増し、一方で、少子化に伴い研究者の常勤ポジションがほとんど増えないという状況が生まれてしまいました。僅かな数の常勤ポジションに対し、多数の博士が殺到し、そこに入るための道筋(トラック)が異常なレベルの競争的なものになってしまったわけです。


格差がもたらす研究力の低下
研究者社会では、常勤と非常勤の待遇の差が大きすぎます。この格差が日本の研究力にもたらす大きなマイナス点が少なくとも2点あると思われます。

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1. 研究力を持つ若手が参入しなくなる


常勤と非常勤の待遇の差が大きいのは、日本では研究者社会だけではないかもしれません。しかし、研究者社会では、常勤ポストは博士号取得者の数に対して極めて僅かしかなく、それをめぐる競争があまりにも激しいという特殊な状況があります(これをここで再度説明する必要はないでしょう)。また、「競争が激しい」だけであればまだ良いかもしれません。自分の実力に自信を持つ若手は参入するでしょう。問題なのは、これに加え、日本の研究業界では、競争で勝ち残れなかった場合に「つぶしがきかない(他の業界に就職口が少ない)」ということと、「競争」に透明性・公平性が欠けているということもあります。つまり、研究成果をいくらあげていても必ずしも競争に勝って常勤ポジションを得ることができるとは限らないし、それを得ることができなかった場合に払わなければいけない犠牲はあまりにも大きいわけです。
このため、研究の適性が高い若手でも、そのようなリスクを負いたくない場合は、別の業種を選んでしまうことが多くなっていると考えられます。
日本人には、そもそも安定思考が強い人々が多いのではないでしょうか。日本は正社員や(正規の)公務員であることが非常に高い価値を持つ社会であり、非常勤では住宅ローンを組むのも困難でしょうし、結婚して家族を持つことにさえ支障が出てしまうことがあるのです。この4月に「改正労働契約法」が施行され、大学で非常勤講師を原則5年で契約を打ち切って「雇い止め」にする動きも生じつつ有り、この研究者コミュニティ内の格差はさらに拡大しそうな気配になってきています(榎木先生の記事とそこでの議論もご参照ください)。
こういう状況を放置すれば、研究の適性が高い若手はますます他の業界へ逃げてしまい、日本の研究力低下が加速してしまうのは間違いないではないでしょうか。

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2. 「競争」のために生産性が削がれてしまっている
本来、適度な「競争」は全体の生産性を上げることが期待されます。「競争」のために研究の生産性が削がれてしまっているとは、どういうことでしょうか?
日本の研究者社会では、非常勤(プラス再任なしの任期制常勤職員)の間には上述のように激しい競争が存在します。この「競争」が真の生産性を上げることに繋がっていない要因には以下のようなものがあるかと思います。一つは、短期間で華々しい成果をあげなければいけないため、地に足の着いた地味ではあるが重要な研究や、ハイリスク・ハイリターンの長期に渡る努力が必要な研究は極めて行いにくい環境にあることです。真にイノベーションを生むような研究はこの種の研究が多いので、この「競争」の仕組みはそれを強力に阻害していると言えるでしょう。二つ目は、競争に勝ち残るための「華々しい成果」というのは事実上ハイインパクトなジャーナルへの掲載、ということになっていることが多いことです。これは、現在流行りのトピックを選びがちになったり、捏造を引き起こす要因になったりするマイナスがあります。またハイインパクトなジャーナルへの掲載するには大量のデータを準備する必要もあるので、研究成果が世にでるのを遅延させてしまう、という側面もあります。研究評価に関するサンフランシスコ宣言(The San Francisco Declaration on Research Assessment; DORA)においても、ジャーナルのインパクトファクターを個々の研究論文、研究者の評価に用いることが厳しく批判されていますが、日本では有効な対策が十分に議論されておらず、ハイインパクトなジャーナル至上主義が顕著であり、研究の生産性を削いでいるのは間違いないでしょう。三つ目は、比較的高額の研究費を要するような分野の研究者は、研究費の申請をたくさん行わなければいけないことです。常に応募をし続けなければならず疲弊します。申請書や報告書を書くのに時間と労力が使われてしまい、真の研究に割くべきリソースが大幅にムダに費やされてしまいます。これは、Science Talks でのインタビューでも述べた通りです。


さらには、3〜5年の研究費で雇用されているポスドクや、任期のある研究者(テニュア・トラックも含む)などは、短い期間で研究の場を異動せざるを得なくなってしまうことが多々あるというような問題もあります。異動する際は、引っ越し&新たな場所でのセットアップという作業をしなければなりませんし、ポスドクであれば研究テーマも代えざるを得ないことが多いでしょう。これらの要因によって、研究者が研究に集中することが妨げられており、研究の進展が阻害されています。


一方で、激しい「競争」にさらされているのは、主に非常勤の研究者でしかないということもあります。常勤職員の間では(少なくとも待遇的な面では)競争が弱く一旦職を得てしまえば定年まで安泰で、給与は年功序列で定年まで毎年少しずつ上がっていきます。極端な話、研究などしていなくても職の安定性や報酬の観点から言えば全く問題がありません。つまり、「厳しい競争」というのは「過度な競争」という意味だけではなく、非常勤の研究者と一部の研究志向的な常勤研究者に限定されているという「いびつな競争」になってしまっていることでもあり、全体の生産性をあげるような仕組みになっていません。


要は、現状では、むやみに研究者間の競争が厳しいだけで生産性をむしろ削いでいる状態であり、適度な競争がうまく生産性に結びつくようなマネジメントが全くできていない、というのが現状ではないでしょうか。なぜそのような基本的なマネジメントもできないのか、ということはとても不思議なことであり、それも大きなトピックではあるのですが、その議論はまた追って別のところでできればと思います。


安定性と競争性を担保する人事制度
では、どうすればよいか?ということについての具体案を提案したいと思います。

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一つは、博士号を取得し、ある期間に一定の実績を上げることができた研究者は、原則的に任期なし常勤ポジション(テニュア)が与えられるような仕組みにすることです。研究者のセーフティネットを設けて、新規参入の壁を低くし、地に足のついた長期的研究をサポートします。
「任期なし常勤ポジション」といっても、現状のように年功序列で毎年給与が上がっていくようなものでなく、基本的人権が保証されるレベル、プラスαくらいの基本給が保証され、そこに業績や評価に連動したアドオン給与が設定されるような具合です(図1)。

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アドオン給与は、研究者自身が取得した研究費の間接経費、行う授業のコマ数が主要なものとなります。各種委員会での活動実績、大学の広報活動、その他の活動なども考慮されアドオンされるようにします。また、業務時間外での副業も自由度を高め、産学連携が行いやすいようにしておきます。
このようにすることによって、テニュアを取得したあとであっても、研究費が取得できない場合や、評価が低い場合は、総収入は低くなることになります。しかし、(最低限の仕事をしている限りは)ベースは保証され、路頭に迷うことはなくなります。研究能力が落ちてきても、多くの教育コマ数をこなしたり、委員会の委員を務めたりすれば、アドオン部分も減らさなくてすむわけです。
以上が概要ですが、改正労働法に対応する必要もありますので、もう少し詳細な案も考えてみました(これは他にもいろいろありうると思いますが、単なる一案としてご覧ください)。
まず、博士号取得後、テニュア審査機関のようなところに登録し、テニュア・トラックに乗ります (図2)。
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雇用としては、この間、テニュアが取得されるまでは従来型の機関所属のポスドクと同様な方式にしておきます(外部資金などで機関に雇用される)。一定期間経過後、テニュア審査が行われて合否が判定がなされます。合格した場合は中央の研究費配分機関(日本学術振興会や科学技術振興機構、新設される日本版NIHなど)にテニュアで雇用され、上記のような任期なし常勤ポジションを取得できることになります。不合格の場合は、改正労働法がありますので機関は異動しなければいけませんが、何回か再チャレンジができるようにしておきます。


研究費配分機関はこのようなテニュア研究者を、その時の状況に合わせてフレキシブルに大学・研究機関の研究室主催者(Principal Investigator; PI)の研究室に派遣します。基本的には、テニュア研究者自身がより良い条件(より高いアドオンやより良い研究環境など)を出してくれるPIを自分でみつけます。PIは自分の研究費から派遣元の独法へ人件費相当の費用を支払うとともに、間接経費からその研究者にアドオンを支払います。自分をホストしてくれるPIが見つからない場合は、派遣元の独法が仕事を探して斡旋します。
テニュア研究者は、スペースをホストしてくれる大学・研究機関が有る場合、自分で研究費を取得してミニPIとして活動することも可能です(自分の間接経費からアドオンを支払う)。


研究費配分機関にテニュアで雇用されている研究者は、従来型の大学・研究機関などの常勤教職員のポジションが見つかればそこに異動しても良いが、そういうものが見つからなければ見つからないで、一生、そのポジションにいることも可能です(図3)。

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従来型の大学・研究機関などの常勤教職員の待遇については、すぐに現状を変えるのは困難かと思われますが、徐々に同様な仕組みを導入していくことを促すことがよいのではないかと思います。つまり、基本給はある程度抑えておき、間接経費によるアドオン部分の比重を増していくことです。大学教員の年棒制導入の話も出ているようですが[日経新聞記事 「国立大教員1万人に年俸制導入 文科省、15年度末までに」; 第1回 産業競争力会議 雇用・人材分科会 配布資料5−1(pdf)]、そのような場合でもこのような仕組みは考慮されるとよいのではないでしょうか。


また、博士号取得者は何も研究そのものをやる必要はないわけで、研究をサポートするような技術員トラック、事務系トラックや、教育トラックというものに入ることもできるようにしておきます(中核となる業務が異なるだけで、待遇は同様な仕組み;図4)。


研究費の仕組み改善もセットで
上記のような仕組みを導入する場合、研究費の間接経費がアドオンの額を大きく左右するようになります。これには、現状で反発が予想されます。というのは、上に述べたように、現状の「競争的研究費」が透明性・公平性にかけること、「競争的研究費」の取得がギャンブル的になっており変動がオールオアナンのようになっていて安定性に欠けるからです。報酬におけるアドオンの比重を高くするならば、「競争的研究費」が透明性・公平性は必須であり、「出来レース」のようなことはなんとしても排除される必要があります。また、過去の実績をより適切に反映しつつ額がゆるやかに変動するようなものでなければならないでしょう。つまり、上記のような人事の仕組みは、研究費のあり方の改善と一体化して行われるべきでしょう。「過去の実績に連動して安定して額が変動するような研究費」については、以前、提案しまして、これと合わせて行ったアンケート [安定した基盤研究費の導入を!] でも9割以上の方々のご支持をいただいています。
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研究費の仕組みについての議論もこちらで歓迎いたします。


研究者コミュニティからの提案を
以上のような主旨の案は、学会の懇親会やネット上でことあるごとに提案しており、ご賛同をいただくことが多々あります。そのように多くの賛同が得られるような案でもなんらかのアクションなしでは、実現にいたりません。また、要は、現在よりも研究者が研究にしっかり集中できるようにし、限られた資源が有効に使われるような仕組みに改善することが大切で、この案はそれを目的とした一つの可能性にすぎません。ぜひ、こういった場で議論を十分に行なって案を良いものにし、研究者コミュニティからの案として、行政に関わる方々に提示していく必要があるように思います。提案には、客観的エビデンスも必要ですので、議論にご参加いただかない方でも、アンケートにご回答いただけますと幸いです。


藤田保健衛生大学・教授・宮川 剛
(この意見は筆者が所属する組織の意見を反映しているものではありません)

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アンケート
ここで提案されている新たな日本版テニュアトラック制度の案では、最低限の報酬や身分の安定が保証される一方で、研究業績や評価、教育コマ数やこなした各種大学業務などに連動したアドオン給与の設定により競争性も担保されます。具体的な「最低限の報酬」やアドオンの額、実績評価の方法については別途検討することとし、選択肢を選ぶ上で考慮に入れないでください。
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安定性と競争性を担保する日本版テニュアトラック制度を導入して欲しいとおもいますか?

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このようなテニュアトラック制度を導入すると、国全体として見た時に、研究成果のアウトプットは増えるとおもいますか?

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