2013.05.01 トピックス
その他の問題 -文科省お役人への質問のまとめIII-
- 今回、『ガチ議論企画その1:「文科省お役人への質問大募集」』にはご質問が沢山寄せられましたが、その内容は多義にわたりました。日本の科学は国際的に不平等な状況におかれているのではないか?研究リソースを効率的に活用するための拠点整備が必要ではないか?日本の研究者は雑用が多すぎるのではないか?などです。これらはそれぞれ大きく重要な問題ですが、こちらではスペースの都合上「その他の質問」として、ひとつの記事上でまとめさせていただきました。会合では、これらの問題についても戦略室の官僚の方と議論を行う予定です。頂いた回答については後日、独立した記事としてアップいたします。これと平行して、こちらでは頂いたご質問(下記参照)について皆様からのご意見を募集します。質問にはそれぞれ番号をつけておりますので、コメントを投稿いただく際には「II-3」など、質問の番号をお示しいただきますようお願いいたします。
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- III-1 日本の科学がおかれている国際的に不平等な状況
- ある米国の有名PI(バイオ系)が言っていたことです。「日本から留学してきたポスドク(特に女性)にはCNSクラスの仕事を任せる。CNSに論文が載ればそのポスドクは帰国してアカポス取れる可能性が高まる。日本のポストでも引き続き留学中のテーマを持ち帰らせて実験させる。日本ではCNS持ちに研究費をたくさん出してくれるから、日本の研究費にフリーライドして研究成果を出せる。もちろんコレスポは渡さない。」本当にそういう事例があるか不明で、この米国PIの「個人的戦略」かもしれませんが、気になったのであえてここで紹介しました。MEXTとしての見解をお願いしたいです。(ATSUSHI TOYODA さん)
- – - - これはある頻度であると思います。特にCNSに関しては。日本女性研究者は便利な存在と思われていることも。仮にコレスポを渡したとしても。女性というより日本人がこの戦略対象として使えると思われているように思います。いつも失礼な話と思いながら聞いていますが。(Miwako Ozaki さん)
- – - - こちらの見解は重要です。日本に有力学術誌がなく、実質カネと情報を吸い取られている状況になっている点もあわせてみると、科学の植民地化が進んでいるとみるべきではないでしょうか。ぜひ政府で議論してください。(Akiyama さん)
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- III-2 研究リソースの効率化
- 次世代シーケンサーなどの「ハイスループット」機器は現在、初期投資と維持のコストの構造はひとつの研究室のような小集団で賄えません。少数台導入しても技術の進展が早くすぐに時代遅れになります。中国はBGI、米国はBroadと集約型の巨大研究所を立ちあげて牽引しています。全日本のハイスループット機器需要を一挙に引受ける「一個」の集約拠点を作り、十年のような長いスパンで人と機器を運営していくべきではないでしょうか?(Takashi Hamaji さん)
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- III-3 研究者の雑用問題
- 日本の研究者は無駄な雑務や会議に追われています。ゴミ箱一つの設置場所すら教授が会議で議論するという話を聞きます。研究者が関わる事務書類や委員会をまずは半分を目標に減らすよう各大学および日本学術振興会に通達を出して頂けませんでしょうか。(Tak さん)
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- III-4 古い縦割りの分野をどうするか
- 大学教員の公募をみてみると、非常に限定されたまた既存の分野に対する公募が多いです。新しい分野に対する間口が狭すぎないでしょうか? でも、これは大学の問題で、文科省の問題ではない?(YK さん)
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- III-5 大学の教養課程の必要性
- 大学の教養教育をなくし、卒業研究の開始時期を1年前倒しすべき。3年春から卒業研究を始められれば、企業も、教員も、学生自身も3年冬には卒業研究の進捗状況から学生の能力・適性を客観的に判断して進路を検討できる。学生の卒業研究に対する熱意も高まる。何より、技術立国の礎となる大学生の専門能力を確実に今以上に高めることができる。大学からは変えられません。文科省の強いリーダーシップに期待しています。(kaz さん)
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- III-6 科研費の応募資格
- 科研費の応募資格のことなのですが、任期付の場合、任期が応募を予定している研究期間に満たない場合は応募できないのですが、これってなんとかなりませんか? 例えば、科研費を獲得できた場合には任期を延長できるように人件費も支給することはできないものでしょうか。(Shigeru さん)
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- III-7 文部科学省の意図と、受け取る側のずれ
- 文部科学省で議されている政策が、JSTや大学に落ちると、ネジ曲がってしまうのはなぜでしょう?(橋本 昌隆 さん)
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- III-8 研究に関わる研究者以外の人材の育成や雇用について
- コメントにも多々あるように研究に伴う事務作業を研究者は無駄、雑用と切り捨てますが、本来公的予算の執行や資材の管理はプロフェッショナルが行うべき重要業務です。そういった分野のプロを育ててこなかったのは大学や大学院の責任でもあり、他人事ではないと思います。このような研究に関わる研究者以外の育成や雇用についてどのような展望があるのか、大学院政策の観点から伺いたいと思います。(Kouno さん)
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- III-9 研究への寄付
- 海外と日本で大きく違うのはドネーションベースの研究費の額です。アメリカにはHoward Hughes Medical Insitituteを始め、大きいものから小さいものまで多種多様な私的グラントが存在します。これは一般の国民が研究をサポートする事で社会に貢献するという、成熟した国の一つのかたちだと思います。日本でもこれをもっと導入すれば、研究費のほとんどが国家予算という現状を改善でき、研究費の使いやすさが格段に向上することでしょう。文科省は財務省と協力して、(小額であっても)研究費への寄付には大幅な税制控除を与えるような法整備を検討できませんでしょうか?(TK さん)
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- III-10 公正な科学技術のあり方
- 論文の不正事件が起こった時は大学や研究者の自浄作用に任せるのが文科省の方針のようですが、大学を解雇されて研究者コミュニティーから追放された人物が実在しない組織名を使って、不正が疑われる論文を発表していた場合はどの組織が対応すべきなのでしょうか?
もしこの論文の内容が事実ならば、遺伝子組み換え人間を誕生させた組織が千葉県内に存在していることになります。 - http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23605829(reprogramming さん)
- – - - *なお、このテーマでは、これまでにトピックとして、『監査局や研究公正局の設立の必要性』というご意見もいただいております。今後また「捏造特集」の際にさらに議論を行う予定です。
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- III-11 もんじゅプロジェクトについて
- もんじゅプロジェクトは文科省が行っているということですが、もんじゅにはこれまで2兆円が投じられ、現在も維持のみに「一日当たり」5500万円相当のコストがかかっていると聞きます。高速増殖炉は米、英、仏、独いずれも撤退する中、一度たりとも成功せず不祥事だらけのもんじゅに巨額を投じ続けるのはまさに無駄ではないですか。このお金を多様な研究や学生に投じれば多くの問題が改善するでしょう。もんじゅの無駄についてご意見をうかがいたいと思います。(Yoshimura さん)
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以下に皆様からの質問を紹介します。
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皆様のコメントのように多くの原因がありますが、大学法人化の流れも主要なひとつでしょう。法人化と競争的資金への移行によって、ハウスキーピングな業務を行う雇用が削減されていきました。例としては以前は教務職員という補助的な職がありましたが、法人化の流れによって消滅しました。結果、教員にさまざまな業務がふりかかります。企業なら研究開発部門だけ肥大しても意味がないことは常識なのでしょうが。研究者が自分の研究利益だけ考えて支持してしまった大学改革が結局は短期的な部分最適でしかなかったということではないでしょうか。
III-5 大学の教養課程の必要性
>大学の教養教育をなくし、卒業研究の開始時期を1年前倒しすべき。
受験対策を主とした高校教育の繰り返しのような教養教育の改革は必要と思いますが、学部で学ぶ専門分野以外の学術分野についての教養教育をなくすことには反対します。教養教育で幅広い知見や考え方を学ぶことが、卒業後の研究・社会活動における新しい発想やブレークスルーを生み出す原動力になると思います。
>3年春から卒業研究を始められれば、企業も、教員も、学生自身も3年冬には卒業研究の進捗状況から学生の能力・適性を客観的に判断して進路を検討できる。学生の卒業研究に対する熱意も高まる。何より、技術立国の礎となる大学生の専門能力を確実に今以上に高めることができる。
大学学部卒業生が備える(卒業研究によって培われる)資質は、大学/学部によって異なると思います。高い専門能力(知識、技術)よりは、未経験な状況に対する適応力や課題設定能力が重要だと私は思っています。学生の卒業研究に対する熱意を高めるためには、テーマの選択、課題設定についての適切な指導、カリキュラム編成が必要であり、履修開始時期を早めることではないと思います。
>大学からは変えられません。文科省の強いリーダーシップに期待しています。
大学から変えられないのは、主として、財政面での制約により自己改革の自由度が低いことと、大学の内部調整能力が低いことが原因だと思います。文科省の強いリーダーシップに期待するのではなくて、各大学が大学運営の透明化・情報公開の下で自己改革を推進することが必要であり、その財政面における積極的な支援を文科省に期待したいと思います。自己改革を推進できない大学が社会・受験生の支持を失い淘汰されるのは仕方がないと思います。
指摘されている事の問題点のほとんどは、大学の自治のありかたの問題と思います。現在の日本の大学は1960年代学生運動の影響から、教授会に絶大な権力を保持させた事が原因なのでは無いでしょうか。ですので、各教授がお互いの同意のもとに、決定権を以上していけば会議は減るのではないでしょうか。一方で、そのように権力を手放す事によって、学内での政治力が下がり、資金配分や、学部長、学長への道が遠ざかるから、手放したく無いという教授も存在するでしょう。これは、文部科学省のもんだいではなく、大学人の問題だと思いますが。
大学の運営が経営の素人である教授会にゆだねられていることは異常な事だとおもいませんか。経営の素人集団よりも、経営のプロに大学に入ってもらって学校運営をゆだねて、教授は、教育もしくは研究に専念すればよいのではありませんか?
「III-3」との関係は薄いかもしれませんが、研究業績報告などで業績など色々と重複する項目がありますが、フォーマットがまちまちで無駄以外の何物でもありません。e-radなどに順次追加していけば良いシステムにできないでしょうか。何のストッピングパワーのない重複書類を無くしていくのが現在最も必要なことだと思います。
委員会をなくすためにはその委員会をなくすための委員会を作らなければいけないという冗談も聞いた事があります。研究者は事務処理能力に選択圧がかかっている職ではないので、天は二物を与えず、ということであれば研究以外の業務に関する才能は人並み以下と考える方が自然です。研究、それ以外の事務業務、どちらも大切な仕事ですが、大切なだけに、両立は難しいと思います。混ぜるな危険、です。通達を出したところで何も変わらない、なんてことになるのかもしれませんが、一度どこかでリセットして、これは必要、これはいらない、と、変えていければ良いですよね。でもリセットするための委員会、その委員会をつくるためのワーキンググループ、ワーキンググループ設立準備委員会、、、が新しくできるだけだったりして。そういう立場になった事が無いので実情は分かりませんが、もし若手教員が旗振り業務をしなければならないとしたら、それはかなり深刻な状況だと思います。
「III-3」を書いた本人です。端的過ぎたかもしれませんので、補足して書きます。
私は、研究成果とは、長い自由時間を使って、何かに没頭することから生まれるものと思っています。他者との交流時間や、日常生活のワンシーンで頭に浮かぶものもあるかもしれませんが、基本的には何ものにも束縛されない長い自由時間が大事だと思っています。しかし、日本の生命科学の研究者は、研究対象とは無関係の人事や会計や資材管理の書類に追われ、長い自由時間をほとんど取れていないのが現状と感じています。
私はかつて指導者から、「大学の先生になるつもりなら、教授会でゴミ箱一つの設置場所を話し合って決めることがあることは覚悟しておきなさい」と言われました。他にも、新たに設置する花壇の仕様を教授会で議論したという話や、若手教員が学生の登下校時間帯に緑のおばさんのような旗振りの仕事をしているという話を他の人から聞きました。私自身も研究以外の様々な業務を体験してきました。時間が割かれる以上に、責任が精神的負荷としてのしかかることが問題です。
これらの業務を無駄な雑務と言ったら怒る方もいるかもしれません。確かに、それぞれの業務は、それぞれの経緯と意味を持って生まれてきています。上記の旗振りの業務も、その国立大学の正門前交差点がその県の交通事故発生件数ワースト3の交差点であったことを考えれば、納得するべきなのかもしれません。しかし、それらを本分ではない雑務として研究者が可能な限り忌避していかなくては、国際競争で日本は負けてしまうように感じます。業務に法的根拠があるのであれば、その法律を一つ一つ変えさせるよう動くぐらいの姿勢で臨まないと負けてしまうように感じます。
それぞれの事業所で業務内容や事情は異なるように感じますし、業務の簡素化にあたってはそれが与える影響を細かく考えていかなければなりませんので、各事業所が自助努力することをベースにするべきとは思います。しかし、前例主義や事なかれ主義は根強いです。また、研究者としての活動が事実上無くなってしまっている少なくない職員には、研究以外の業務が少なくなることに対して抵抗する人もいます。上部機関から強いインセンティブが与えられないと、業務の簡素化にはなかなか動けないのが実情と思います。そこで、研究者が関わる事務書類や委員会をまずは半分を目標に減らすよう文部科学省から各大学および日本学術振興会に通達を出していただくことを提案します。
研究以外の業務に追われているのは、決して二流三流の研究者だけではありません。一流の人も、こなすのが早いかもしれませんが、研究以外のたくさんの業務をこなしているのは間違いありません。また、若手や任期付職員に研究以外の業務を与えないように努めている人もいれば、努めていない人もいます。