【帰ってきた】ガチ議論
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研究公正を推進するためには何が必要か?

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研究コミュニティでは近年、研究公正の推進をいかにして進めるかという議論が活発になっています。文部科学省には研究公正推進室が設置され、JST、AMED、日本学術振興会といった関連機関が協働して研究公正ポータルというwebサイトを運営するようになりました[1]。それに伴い、邪悪な研究者個人による不正行為というイメージは、研究活動に必然的に伴う「ミスコンダクト」という認識へと変化し、研究不正には包括的な対策が必要であるという考え方が広く受け入れられるようになってきました。

米国科学アカデミーは最近、Fostering Integrity in Researchという報告書を公開し、近年の研究環境の変化を反映した研究公正への取り組みを提言しています[2]。研究者のみなさまには是非目を通していただきたい内容ですが、そこで強調されていることのひとつは、研究機関が研究公正の推進において中心的な役割を果たすべきであるということです。「連邦規則を遵守すべき上限と考えるのではなく、これを最低限の義務として認識し、率先して高い規範意識をもつ必要がある」ことが述べられています。報告書には独立した非営利の研究公正諮問機関を設けるべきという提言も含まれています。我が国でも2005年に日本学術会議からアカデミックコートの設置が提言されましたが、実現していません[3]。

こうした変化をふまえて我が国のガイドライン等を調べると、研究公正の推進に対して研究機関に十分なインセンティブが与えられていないことに気がつきます。

・第三者調査委員会の設置、審議、報告書の取りまとめは、研究機関にとって大きな負担ですが、予算として平時から計上できるものではありません。

・研究不正の認定は、外部評価におけるマイナス材料となります。

・研究不正の認定は、間接経費の削減というペナルティにつながる可能性があります。

・研究不正の認定に伴う不正研究者の懲戒処分には訴訟リスクが伴います。不正の程度と処分との関係は過去の事例はばらばらであり、参照できる基準はありません。

・大型研究費を獲得している研究者の不正では、研究資金配分機関から研究費の返還請求は大きなリスクとなります。

一方で、

・研究機関による研究不正疑義の告発の無視、あるいは隠蔽に対するペナルティはありません。

・調査の結果、最終的に疑義がシロ認定された場合、調査報告書を開示する義務はありません[4]。

・文部科学省をはじめとする調査報告書を受理する側は、その内容の妥当性を評価することはありません。

研究機関は、研究公正を推進しようとしても不正を認定すれば不利益を被るという、利益相反の状況に置かれています。研究者ではない理事からは、わざわざコストをかけて研究公正を推進する意義を問われることもあるかもしれません。研究機関の利益を優先する場合には、以下のような対応が最適解でしょう。

・疑義の告発には出来る限り対応しない。匿名やweb上のものは基本的に無視する。

・調査委員会を設置する場合も、指摘のあった箇所に限定して調査を実施し、余分な調査はしない。可能な限りシロ判定になるよう資料を解釈する。

・完全なシロ判定に到達した場合は、調査報告書の公開請求には応じない。

こうした対応は、いずれも研究公正の推進を妨げるものと言えるでしょう。一方で、調査委員会が、指摘のない論文まで調査し、その訂正や撤回を求めている例もたくさんありますが、これは、当該研究機関が高い規範意識を発露した結果と考えることができます。しかしながら、機関によって対応がまちまちという状況は改善するべきです。

文部科学省のガイドラインは今後も研究環境の変化に応じて見直しがあることが明言されています。そこで、以下の提案を考えました。

・研究不正の疑義に一定の合理性がある場合、研究機関が研究不正を一切認定しないという結論であっても、調査報告書は全て公開し、不正を認定しない根拠を示す。あるいは、告発者が受け取る調査報告書を公開することを妨げない。(本調査に入る事例では指摘の合理性は認められているはずです。一方で予備調査で却下する場合もその理由は開示されるべきです)

・告発者、あるいは被告発者から調査報告書の結論に異議がとなえられた場合、文部科学省は第三者的な諮問機関に調査報告書の評価を依頼する。この評価にかかる議事は全て記録として保全し、一定期間後にこれを公開する。(第三者性というのは、手続きの透明性を確保することでしか保証することはできないと思います。現状では、関連学会、あるいはAPRINのような組織が諮問機関の候補となるでしょう。)

アカデミックコートに相当する組織の将来的な設立を奨励する。

告発を無視したり隠蔽していることが発覚した研究機関は低く評価されるべきですが、こうした事例に対する罰則も設けた方が良いでしょう。一方で丁寧な調査報告を実施できた研究機関は高く評価し、調査費用に相当する予算配分を追加することも考えて良いと思います。大型の研究不正では数十億の研究費が雲散霧消することを考えれば、調査費用はそれほど大きな額とはいえないです。

研究不正の容認や、一貫性のない対応は、研究者のモラルを低下させると同時に、誠実な若い人材を研究コミュニティから遠ざけるものです。また、研究機関が専門家の指摘を軽視するという姿勢は、長い目で見れば、その研究機関自身の衰退につながるでしょう。活発な議論をベースに望ましい方向性を模索できればと思います。

田中 智之

1. 研究公正ポータル(科学技術振興機構)
2. McNutt, M., Nerem, R. M. Research integrity revisited. Science 356, 115, 2017
3. 科学におけるミスコンダクトの現状と対策ー科学者コミュニティの自律に向けて(日本学術会議、学術と社会常置委員会、平成17年7月))[PDF]
4. 研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン(文部科学省、平成26年8月)[PDF]

(抜粋)
4−2 告発に対する調査体制・方法
(6)調査結果の公表
①調査機関は、特定不正行為が行われたとの認定があった場合は、速やかに 調査結果を公表する。
②調査機関は、特定不正行為が行われなかったとの認定があった場合は、原則として調査結果を公表しない。ただし、調査事案が外部に漏えいしていた場合及び論文等に故意によるものでない誤りがあった場合は、調査結果を公表する。悪意に基づく告発の認定があったときは、調査結果を公表する。
③上記①、②の公表する調査結果の内容(項目等)は、調査機関の定めるところによる。

上記の意見は、筆者個人のものであり、その所属とは無関係です。また、ガチ議論スタッフの意見を代表するものでもありません。



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研究機関は、研究公正を推進しようとしても不正を認定すれば不利益を被るという、利益相反の状況に置かれています。この状態で研究不正が適切に調査・評価できるとおもいますか?

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