2018.07.12 トピックス
脳科学は次の10~20年に何をどう目指すべきか?
日本神経科学学会とガチ議論のタイアップによる企画を行います。
以下のような主旨で、日本神経科学学会の大会において討論会を行います。討論会では、2時間程度の時間をとっていますが、2時間で議論し尽くすことができるようなトピックではありません。そこで、ガチ議論とタイアップして、事前、事後にネット上でディスカッションを行うことができる場をこちらに設けます。
討論会でたたき台として用いられるプレゼン資料をこちら(OpenNeuro Repository)からダウンロードできるようにしました。
これらの資料をご覧いただいた上で、脳科学は次の10~20年に何をどう目指すべきか、についてご意見のあるかたは Disqus(本ページ下部)に書き込みをお願いいたします。
日本神経科学学会の学会員はもちろん、脳科学研究に関心のある研究者のご意見も歓迎いたします。
脳科学は次の10~20年に何をどう目指すべきか? 日本神経科学学会 ランチョン大討論会
近年、遺伝子編集技術、光遺伝学、ブレインマッピング、単一細胞シークエンシング、ディープラーニングなど、さまざまな新しい技術が開発され、神経科学研究が大きく進展しています。このように研究が高度化・大型化される一方で、個々の研究者が何をどのように研究するのかという問題が議論されるようになってきました。また基礎科学の成果を臨床医学や社会科学、あるいは企業と連携して社会に役立てていくためにはどのようにすれば良いのでしょうか? 本ランチョン大討論会では、来る10-20年のタイムスパンで日本の脳科学を発展させていくには何を、どう目指せばよいのかについて、今大会のシンポジウムオーガナイザーから7名の有志に持論を発表してていただき、その後ホンネでの議論を行います。
・日時:7月29日(日)12:00-14:00 ※大会参加手続きの上、企画への参加登録が必要です
・会場:第3会場(神戸国際会議場 レセプションホール)
・主催:日本神経科学学会 研究体制・他学会連携委員会
・後援:日本脳科学関連学会連合・JST 研究開発戦略センター(CRDS)
・企画:宮川 剛, 小清水 久嗣(藤田保健衛生大学); 柚崎 通介(慶應義塾大学)
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2018年7月29日に開催されたランチョン大討論会のテープ起こし(PDF)です。
https://www.jnss.org/wp-content/uploads/2019/05/2018%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A7%E3%83%B3%E8%A8%8E%E8%AB%96%E4%BC%9A%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%81.pdf
フォーカスする時空間的な現象の数理的モデリングは望むだけできるはずですがすべての要素をシミュレーションするのはさすがに計算力がいくらあっても足りないでしょう。、ただ、そのフォーカスする周囲の状態はより単純化してシミュレーションすればより精度よくフォーカスする現象を知ることができるのではないでしょうか?、さらにその簡約化をすればほかの現象にもより詳しいシミュレーションができるという連鎖が可能かと。では、その基礎(シミュレーションの共通れべる)となるレベルはなにか?というのが次の議論となるでしょう
宮川先生、コメントありがとうございます。
そして、回答が遅くなり大変申し訳ありません。。
・線虫の神経系にも炎症というのは起こるのでしょうか。
炎症の存在を示した報告はおそらくないと思います。
一方で、感染に対する自然免疫のシグナル伝達機構はよく保存されているようです(Ewbank, J. J, WormBook, doi/10.1895/wormbook.1.83.1)。
・線虫にもグリアはあるということですが、ミクログリアとかアストロサイトに対応するものはあるのでしょうか?
ミクログリアはおそらくないと思います。発生過程に生じる死細胞の貪食は、専門の貪食細胞ではなく、周囲の細胞が担っている、と聞いたことがあります。
アストロサイトと完全に対応するかは不明ですが、グリアがニューロンの形態維持にはたらくとか、ニューロンと情報伝達することは報告されています。(Singhvi, Cell, 2016; Yin, Nature, 2017)
・神経細胞の機能的な性質が長期的に変化してしまう、というような知見はありますでしょうか。
Spaced trainingによって条件付けが長時間持続することはいくつかの系で言われています(Amano, Lern. Mem., 2011; Beck, Lern. Mem., 1995; Kauffman, PLoS Biol., 2010)。
ややずれるかもしれませんが、老化個体では行動が変化します。
他に以下のような点も興味があります。
・「線虫ですら解析が困難(大量のデータから意味をどう抽出するか)」とありますが、神経細胞の活動のイメージングの結果から、機械学習のような手法で、線虫の状態や行動を推定する、ということができるのは間違いないように思うのですが、そのあたりの状況はどうなってますでしょうか。
全脳イメージングのデータからは、全身後退の切り替えや睡眠覚醒のような”大雑把な”変化はとらえられていますが(Kato, Cell, 2016; Nichols, Science, 2017)、走性のような“複雑な”過程を形作る活動がとらえられているわけではありません
・得られた神経活動などの大量データは、「ドライ」の研究者にとって面白い研究対象になりうると思うのですが、データの公開のプラットフォーム的なものは整備されているのでしょうか。
1つそれらしいサイトを見つけたのですが、残念ながらリンクが切れています。
http://wormbehavior.mrc-lmb.cam.ac.uk/
・坂田先生の「脳状態」というようなものについてですが、線虫にも神経系の異なる「状態」や「モード」的なものは知られていますでしょうか?
睡眠状態と覚醒状態はかなり異なっていて、睡眠状態では全体的に神経活動がsilentになるようです(Nichols, Science, 2017)。
自分が興味があるのは遺伝子と行動の関係なのですが、それについて私見を述べます。脳で「中間表現型」というものがあるということがわかり、様々な具体例が出てきたことが、この20年で「本質的な問題への理解が進んだ」ことの一つだと自分としては思っています。ゲノムには莫大な多様性があるわけですが、個性・性格や脳の疾患には、明らかに類型があります。これらがどうやって生ずるのかが解くべき大きな問題としてあります。たくさんの遺伝子改変マウスの行動と脳の研究から、全く異なる遺伝子変異なのに、行動レベルで似たような異常のパターンを示すマウスが結構いることがわかってきました。さらに、それらの脳で共通して見られる現象が次々と出てきました。ある種の炎症(ミクログリアとかアストロサイトの活性化、特有の遺伝子発現変化などを伴う)とか、スパインダイナミクスのある種の変化(ターンオーバーの上昇など)、パルバルブミンの減少などはその代表例でしょうし、(手前味噌ですが)「未成熟歯状回」とか、脳pHの低下・上昇もそうです。LTP・LTDの変化などもそういったものかもしれません。おそらく、こういう中間表現型が、脳の各種細胞種、部位・回路で、まだまだたくさんあって、そういうものの組み合わせとして、個性や疾患のタイプが決まってくるのではないかと考えています。その組み合わせは何なのか、とか、どのようにして異なる遺伝子変異が共通した脳内現象をもたらすかなどは、まだほとんど全くといっていいほど未開拓ですが、このような本質的なコンセプトとその具体例が出てきたことによって、(このコンセプトの普及がもっと進めばですが)今後の研究が加速されると思っています。
今後の数十年は今までの20年と地続きであると思います。私は今後の20年を伺うために、2000年代に一体どういった本質的な問題への理解が進んだのか、多様な分野の先生方から見解を伺いたいです。
おっしゃる通りですね!いま、この分野で先を走っている研究者は、きっとそういうことができるようにすることを目指していると思います。私も、それに貢献できるように頑張ってます!
AllenのYouTube、拝見しましたが、素晴らしいです。ただ、彼らの技術をもってしてもやはりまだ人がチェックしなければいけないわけですね。ぜひ、精度を上げていただき、一般研究者がどんどん使えるレベルまで持っていっていただけるとありがたいです。
自分の興味としては病態モデルでこのようなことがシステマティックにできれば、と思うわけですが、この意味ではまだスタートすらしていない感じで、これからの技術としてやはり魅力的です。
「女性が出産・育児をしながら研究を続けられる環境は、男性研究者にとってもいい環境」というのは、まさにおっしゃる通りだと思います。コアラボなどの共同研究のあり方、研究費関連の申請・報告の仕組みなど、無駄を減らして効率化できるはずのことが日本の研究社会にはたくさんあります。それらを一つ一つ協力して解決していくことが、ダイバーシティの問題解決にもつながる本質的な作業なのではないかと思います。
「分子を起点に、回路、個体などの各階層の理解を進めていく」ことについてです。分子・細胞・回路・個体という、それぞれの階層内での現象の理解を進めていくことに加え、階層を超えた連続的な現象を理解することが、今後10年間の課題ではないかと思います。そのためには、時空間的に階層を横断する解析法が必要だと考えます。具体的には(1)ある現象について分子から臓器までの空間的スケールをすべて網羅して捉えられる解析法 (2)同一個体で、現象の始まりから終わりまでを連続して追跡できる解析法 です。
「世界の脳科学」を意識するのであれば、ダイバーシティの議論は欠かせないと思います。最近の若手研究者は、男性も女性も家事・育児を負担しており、どちらのキャリアも尊重しているように思います。実際、男性若手研究者から、夫婦でキャリアを積みながら育児するにはどうしたらいいかという相談をうけることが多いです。女性が出産・育児をしながら研究を続けられる環境は、男性研究者にとってもいい環境であるはずです。長時間研究をしなければいい研究ができないのか?と思われるかもしれませんが、研究室にいる時間が8:00~17:00でもhigh profile journalに毎年論文を出すヨーロッパの研究者をみていると、かならずしもそうではないことがわかります。彼らは、共同研究をうまく行い、効率よく質の高い実験データを得ています。また、実験を行う前にしっかりと論文執筆まで見据えた計画を練り、無駄な実験が少ないことも特徴だと思います。論文の書き方についても、日本よりもノウハウが蓄積されているように思います。
まずは、Allen研究所が一般向けに今年の2月に発表したYuoTubeをご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=LO8xCLBv6j0
なかなかすごいでしょ!個人的に教えてもらったのは、ほぼ9割は正解をだしてくれるということです。パイプラインとして、その後はAnnotatorが手作業でひとつひとつ修正するそうです。それも修正用のアプリの良いのがすでに開発されていて、Harvard大学, Dalhousie大学などでも実際に使われています。100 ミクロン四方の立方体の中の全てが3D化されているので、データ量としてはすごい情報になると思いますよ。今の所はとりあえず細胞の形だけできるそうですが、シナプス同定なんて、もうすでにアルゴリズムは随分前から発表されているので、今頃はきちんとアプリに組み込んでいるものと思います。Sebastianが28日の朝のシンポジウムで話ししてくれると思います。ついでに夜6時から三ノ宮でもサテライトシンポジウムでも話をしてくれます。質疑応答にかなり時間を取ってあるので、直接質問したい方や興味のある方は是非おいでください。
http://www.nips.ac.jp/~cortex/JNS/2018/
CellにJaneliaのDavi Bockらがハエの全脳の電顕画像データセットを公開したって論文出てました。これはTEMCAを使ったものですね!
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(18)30787-6
これが、Google AIのチームがだした論文です。
https://www.nature.com/articles/s41592-018-0049-4
こちらは28日のシンポジウムで竹村さんのトークでなにがしかの紹介があると思います。これも優れものです!
Jeff Lichtmanはきっと人の脳のそういうことを狙って、まずは正常部分から仕事始めたんではないですかね?そう思います。1 PBのデータ量なので、さすがに保存する場所が確保できなかったようで、Googleに全部渡したそうです。それを問題なく受け取るGoogleって、一体どういう会社なんでしょうかね?楽天さんもそうなってくれないかな、、、、。
自動再構築アプリ、そんなに進んでいるのは存じませんでしたが、どの程度まで、信頼できるレベルなのでしょうか。人がチェックしなければいけないということですと二度手間になってしまいそうですが、人が色塗りするのと同等までいっているのだとすればすごいです。以前、自分たちでやったものと比較してみたいです。また、自動でスパインとかPSD、ミトコンドリアその他の細胞内の小器官なども分類して同定し、その形態・サイズも定量してくれるとかだと画期的ですが、そのあたりはどんなものでしょう。あと、ヒトの死後脳はどうでしょうか?もしこれらが実用レベルまで達しているのであれば、病態も含めた各種中間表現型探索には絶好のツールとしては絶好で、「日々使い」の技術として真に有用で素晴らしい、ということになってくるかと思います。
返信遅くなり恐縮です。窪田です。なかなか難しい議論、面白く読ませてもらいました。3D電顕ですが、世界的には、もう随分たくさん出回っていますし、使いこなしておられます。日本円でいうと1億円くらいから10億円近くするものまであるのに、すごい勢いです。しかも1種類だけでなく、SBEM, FIB-SEM, ATUM, TEMCAなど切磋琢磨しており、どれも生き残っていきそうな勢いです。世界はすごいですよね!アメリカ、ドイツ、スイスがリードしてます!そこに最近では韓国も入ってきて、、、、うーーん、日本は、なんか置いてかれてます!頑張らねば、、、、。設備は決して潤沢ではないし、エキスパートも私の知っている限りでは10の研究室もあるかな、、、レベルですし、解析アプリは日本独自のものはまだ表には出てきてません。みなさん、FijiとかTrakEM2などを使ってます。自動再構築アプリは、山形先生がおっしゃるようにGoogleとSebastian Seungの2つのグループが、かなり良いものを作って昨年あたりからほぼ実用化しちゃってます!Google AIのチームリーダーはViren Jainという人で、Sebastianのところで確か学位をとった人です。Sebastianは10年ほど前から自動再構築アプリを作るって言ってましたが、まあ、まだまだ問題ありそうですが、作っちゃいました!彼の弟子のVirenが中心となって、Google AIが作ったアプリはGithubにアップロードされてます。5月の日本顕微鏡学会でGoogle AIで実際にそのアプリを使ってJanelia Research CampusのFlyEMチームのショウジョウバエの全脳のコネクトームプロジェクトのEMデータセットを3次元再構築しているMichal Januszewskiでシンポジウムでトークしてもらいましたが、、、、なんだかもう完成しているみたいで、つい最近、Nature Methodsに論文が発表されてました。もう夢ではないんですね!ただ、、、Googleは、NvidiaのP100 GPUが1000台のクラスターコンピュータでそのディープラーニングアプリを使っているそうです。0.65 TBのEM画像データセットの完全自動再構築におよそ7時間かかるんだそうです。めっちゃ早い!このクラスターPCがいくらするか、、、それは、私の発表でのお楽しみににしときます、、、、。まあ、めっちゃ高いことはバラしておきますけども、、、、。さすが金持ちGoogleです。楽天、GPUくらすたーPCとこのアプリ開発に大金をはたいて投資してくれないかなあ、、、、と思うこの頃です。ちなみに、毎年春に、HHMIとMPIが中心になり、Connectome meetingがJaneliaとBerlinで交互に開催されてまして、活発な情報交換が行われてます!昨年4月のBerlinの会議には参加してきました。来年4月のにも参加する予定です。彼らは、そういうところで情報交換をしっかりしてるんですね!すごいと思いました。
ところで、Jeff Lichtmanのラボは、ヒトの脳(手術で摘出した脳の正常部位)をMSEMで撮影して、1-2 PBの画像セットを自動3次元再構築しつつあるらしい!私が朝のシンポジウムで一瞬だけお見せするMSEMの画像も随分綺麗になったものをお見せするんですが、、、、それ以上にコントラストがくっきりしていて十分3次元再構築できる画像に仕上がっているようです。それがどういう科学的な解析のために進んでいるのかは、全く知りません。ただコネクトーム的に見ているだけでは無いだろうと想像できます。
とりとめのない報告になりましたが、、、、やはり、ここまでできるのは、MiCRONやMPI, HHMI, Allenの桁違いの潤沢な研究費にも起因するのでしょうね!
> 実験動物では病態の表現型について、到達運動のような比較的単純な機能でも深く調べることが難しい
ヒトの脳機能・病態については、動物でモデル化できるものと、そうでないものにざっくり分けることができるのではないでしょうか。当然といえば当然なのですが、動物でモデル化できそうな部分は動物で研究し、そうでない部分はわりとあっさりと諦めて人やそこから得たサンプルを対象にするなどして行う、という方針が基本的にはよさそうな気がします。「動物でモデル化できそうな部分」だけでも、まだまだ全然研究が進んでおらず、膨大な未開拓の領域があります。また、予防・治療のターゲットは、薬物・栄養などをもし使うとすれば、最終的には分子レベルになるはずでしょうので、人間スペシフィックな部分よりも、動物とも共通している部分がターゲットになるポテンシャルが大きいと直感的には感じます。例えば、言語のような人にしかない高次機能が影響を受ける疾患(知的障害とか)でも、多くのものは、遺伝子・分子レベルの問題が背景にあり、当該の遺伝子・分子の異常は、動物でも様々な神経レベル、回路レベル、行動レベルでの障害をもたらすと考えられます。そのレベルでの問題が解消できるような方法があれば、人でも同様に効果がある可能性も高いということになりそうです。
リクルートについてですが、脳科学のエキサイティングな側面を伝えるアウトリーチ活動ももちろん重要ですが、加えて、研究業界のネガティブ面をへらすということもやっていかないと若い人には参入していただけないような気がします。
宮川先生、コメントありがとうございます。「外した」というのはやや誇張かもしれませんが、脳というブラックボックスの動作原理に迫る道筋が明確に描けない状況で、BRAIN Initiativeは現実的で効率的なアプローチを取っていると思います。ただ、どれだけ今のやり方でデータをを集めれば脳がわかったといえるのか、どのように頂上が見えてくると予想されるのか、その道筋が明確になっていないことは明らかです。その意味で「病態」に着目する必要性は全く同感です。脳の正常データを積み重ねる正攻法だけでなく、病態から正常を見る逆のアプローチは不可欠だと思います。このとき、遺伝子改変等により実験動物で病態を再現する方法が現状では最も精度と再現性の高い有力な方法です。一方、実験動物では病態の表現型について、到達運動のような比較的単純な機能でも深く調べることが難しいと思われます(動物に、あーしてほしい、こうしてほしいとあれこれ伝えられないという意味で)。患者さんではその問題はありませんが、病態が複雑で個人差が著しいという問題があります。病態の攻め方について、広くアイディアを集める必要があるように感じています。
出てこい脳科学のケプラー!が、他の業界との激しい競争のもとにあるということは、お恥ずかしいことですが、考えておりませんでした。脳の原理の解明は宇宙の起源や生命の起源に並ぶ、人類の究極の問題の1つだと思いますが、ナイーブな好奇心だけを当てにするのはダメですね。研究者の今まで以上のアウトリーチが必須ですね(自明な答えで、アイディアになっていません)。
そういった少数の方程式で極度に単純化しても、シミュレーションできるものもあるのでしょうね。エネルギー代謝の状態、膜状のチャネル・受容体の挙動、遺伝子・分子発現パターン、細胞内のリン酸化などの分子の各種修飾の状況、細胞の形態の変化、などなど、を考えると、たいへんそうに思えますが、まずは、単純化したもので、どれくらい現実に近くなるのかを調べるという戦略はありそうです。
「普通にMatlabは使うはずなので、加えてPythonくらいなら使えるようになる」というのは、おそらく、大学にはいったすべての人くらいに基礎だけは学部のうちに教えていただくのが良いのでは。一方、「スパコンをしゃぶりつくす」ようなコードが書けるくらいのCSの素養というのは極一部の適性がありそうな人だけできるようになるということでよさそうです。
Neuroscienceについても、杉浦先生のおっしゃるように、基礎的な教養として大学に組み込んでもらうことができればベストかと思います(ホジキン・ハクスレーくらいのものも含めて)。
コメント欄については、幸か不幸か、閑散した涼しい感じでヒートアップまでは程遠いようですので、大丈夫ではないでしょうかw あと、個別のプレゼンについては、本番では議論する時間がほとんどとれないだろう、ということもあります。
宮川先生
山崎です。ご存じの通りスパイク生成のメカニズムはホジキン・ハクスレー方程式、細胞内部を流れる電流はケーブル方程式、カルシウムの挙動は拡散反応方程式、、、と行った具合に式で書けますので、近似の度合いはあるにせよ書き下して数値的に解を求めることは技術的には可能です。細胞パラメータや結合重みを適切に決定するのは至難の業ですが。。。グリアについては私個人は研究対象としていないのでノーアイデアです。私は小脳を主な研究対象にしていますが、小脳単体であればかなりいい線のシミュレーションができていると考えます。線虫のシミュレーションはOpen Source Brain方面の人達がOpenWormプロジェクトというのをやっていますね。
神経科学者でも今は普通にMatlabは使うはずなので、加えてPythonくらいなら使えるようになるのはそれほど難しくはないと思います。一方でスパコンをしゃぶりつくすようなコードを書くには、コンピュータサイエンス(CS)的なものの考え方(例えば数の数え方とか)を身につけている必要があり、それは知識の詰め込みではなかなか厳しいように思います。
我々のスライドにも書きましたが、「CSの人にNeuroscienceを教える」と「Neuroscienceの人にCSを教える」のはどちらが楽でしょうね。
ところで、この一連のコメント欄、本番当日までにヒートアップしてしまうとお客さんを置いてきぼりにしてしまう可能性が。。。
多様性、大事でしょうね。今回、プレゼンをされる方々は、そもそも「選抜」ということをしていません。すべてのシンポジウムのオーガナイザーに発表を呼びかけまして、手を挙げられたすべての方にご発表していただく、というプロセスになりました。つまり、発表をご希望された方がすべてたまたま男性であったということですね。本討論会のディスカッサントのほうは、多様性のことも考慮しまして、6名中2名を女性にお願いしました(お声がけしてもご辞退いただくなどなかなか苦労しましたが)。
日本での男女共同参画の問題は、(小手先のことも重要ですが)本質的な部分から改善していく必要があると自分としては思っています。それは、つまり性別を問わない、ワークーライフバランスの改善です。日本の社会、特に研究業界では伝統的にレイバーインテンシブな働きを過剰に尊重する文化があるのではないでしょうか。労働の質はともかく、雑用でもなんでも、単にたくさん働くのが立派、という文化です。自分も院生・ポスドクの頃は週100時間労働になった、とかいうことで喜んでいたことがあります(笑)。この文化であれば、まさに出産・育児を行う女性には極めて不利、ということになります。自分がNIHにいたときのボスは女性でしたが、朝7時にきて15:00頃帰宅されるのが日課でした。子育てもしつつ、論文もどんどん出すたいへん生産的な先生でした。男性PIも早く帰宅する人も多いですね。欧米では分業が進んでいて、雑用が少ない、というのが大きな違いなのではないかと思います。大学を中心とした研究者コミュニティで分業化を進め、雑用をへらす努力をし、週休完全2日40時間労働で十分、という仕組みを構築するのが男女共同参画を始めとする多様性を確保する意味でも最も重要なことの一つなのではないでしょうか。これを実現するためには、分業化の推進、雑用削減とともに、ポストと研究費の安定性を確保することが重要、というのも(いつもの主張ですが)強調しておきたいと思います。
先日指摘した「あらゆる意味での多様性」の大切さということにも関係していますが、このシンポジウムのスピーカーを見ていて気になったのですが、全員が男性ではないでしょうか。
今年の米国の神経科学学会SfNの選挙結果では、新会長は男性でしたが、会員選挙で選ばれた事務局メンバーの偉い人7名の中で、5名が女性ということになりました。今後10-20年の動向ということを考えればこの結果は極めて重要であると思います。
もう一つのランチョン討論会ではダイバシティの問題を取り上げるようですが、こちらの方も是非そういうことを考慮していただきたいと思います。純粋な科学研究の構想や議論でも大切なことだと思います。
脳の電気的な活動状態をメインで考えるということですかね。短いタイムスケールの活動状態については、刺激によって状態が速いタイムコースで大きく変わってしまうので、システマティックに解析して比較したりするのが、なかなか難しい部分もあり、そこで、安静状態で調べるdefault mode networkの概念が出てきて、ブレイクしたと理解しています。加齢でも、疾患でも、また個性(パーソナリティ)を決めるようなものもそうかもしれませんが、やはり長いタイムスケールの中でゆっくりと変化する(default mode networkを代表例とするような)状態があって、その状態を基盤として、短いスケールの各種状態の生じやすさのようなものが決まってくるようなイメージを持っています。また、遺伝子・分子発現の変化が、回路の変化をもたらして、そういうゆっくりとしたタイムスケールでの電気的な活動状態の変化に帰着するということになるでしょうか。疾患や個性のようなものに興味がある自分としては、状態を研究するのであれば、そういった部分にフォーカスすると面白いのではないかと思います。
技術については、大きなプロジェクトで開発するのであれば、個別の自分の研究だけに使えるようなものではなく、世界の多くの研究者が用いることを想定したような技術、別の言い方で言えば、まさに研究のやり方を変えるようなものを目指して開発していただきたいところです。
宮川先生、コメントをいただきありがとうございます。
まず、「脳状態」の定義ですが、脳の活動状態、と狭義でとらえた方がとっつきやすいかもしれません。時間軸を長めにとれば加齢や脳疾患への変化も考えることになるでしょう。 その場合は、同一個体でなく、異なる個体間の比較といったことがより現実的なアプローチになるかと思います。
回路や遺伝子発現などの情報は、脳の活動状態を詳細に記述するため、もしくはそのメカニズムを知るという視点で重要になるでしょうか。
それに加えて、遺伝子発現や回路などの詳細は違っても、同じことを実現する(同じ問題を起こす)ためのアルゴリズムを理解したり、それを数理的に記述する理論も必要なのだろうと思っています。生物は複雑過ぎ、掘り下げるとキリがないので、上のレベルの理解も目指して、良い指針作りができると良いのかなと思っています。 とにかく、時空間軸を複数桁で扱わないと脳の活動状態を理解できそうにないので、その困難さを意識しながら問題にチャレンジしていきたい、ということです。
何にフォーカスするかは、問題そのものが大きいので、誰が・どこで・どれくらいの規模で研究するかにもよるでしょうか? 日本でプロジェクトを立ち上げるなら、当然、日本の強みを活かすべきだろうと思います。
社会的には、加齢の問題は大きくなり続ける問題なので、先進国ならどこでも問題を共有でき、各自のリソースやツールを最大限活用して協調的に取り組め、良いテーマかもしれません。問題は、加齢だけに時間がかかることでしょうか(それからデータのバラツキも大きそうなので、サンプルサイズの問題もあるでしょうか)。脳疾患も切実な問題なので候補テーマだと思います。その場合、最終目標はヒトが対象になってくるので、時空間+種という別の軸も必要になりそうです。
技術に関して、私が大学院生として研究を始めた時と比べると、デジタル技術や新しい研究パラダイムが研究の世界・やり方を劇的に変えました。10年後、さらにどう変わるか楽しみにしていて、その一つの方向として「自動化」を挙げました。とにかく、今は「不可能」と言われることが実は10年後には普通にできていると良いと思っています。
ご紹介頂いた脳科学事典にも、意識以外の脳機能研究で通常適用されている「機能主義的な脳研究は、….意識の主観的な側面(意識の内容、クオリア)を研究対象に含まない」とあり、現状、「研究の前提となる科学の枠組みにすら重大な哲学的な問題が残る」と記載されていますので、やはり意識研究の中でも「意識の内容」は特別で、まだどのように科学で扱ったら良いのか分かっていない状況であると理解しております。また、ここで意見を述べておきならが大変申し訳ないのですが、具体的な哲学者の方は私も存じ上げませんので、もしこのサイトをご覧の方でご存知の方がおられましたら、是非ご紹介頂きたいです。
(意識研究に全く詳しくなく的外れかもしれず申し訳ないのですが)土谷さんのこれ
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/意識
によると、意識の脳科学的研究の枠組みについては、コッホとかトノーニなどによって、ある程度、整理されていて、どんどん研究を進めるような段階にあるのでは?哲学者がこれらの先端的脳科学の知見を見て、どう考えるかには興味がありますが、そういうレベルにある哲学者(脳科学の知見を学んで理解できるレベルにある哲学者)というのは日本にどれくらいいらっしゃるのでしょうか。
先10-20年で「意識内容を科学研究の対象とするための概念的な枠組みを構築」できたらすばらしいと思います。そのためには、異分野、特に「科学哲学や心の哲学の分野との融合」が重要なのではないかと思います。
演者の方々のプレゼン資料の「戦略」部分(「どう目指すべき」かのところ)についてです。
ざっと拝見しますと、
人材育成・リクルート、教育、
に言及されている方が7名中5名いらしゃいますので、人材に関してのコメントです。
おそらく、この種の議論をこういう学会の場で行うときに、現在、最もニーズ、人気のあるトピックは、人材育成、キャリアパス問題なのではないかと思います。この討論会の場で、十分に議論できるトピックではありませんが、この問題を議論することを避けて通ることもできないように思います。
脳科学に限らず、博士課程に進学する学生さんが減ってきているのは間違いないところで、そこをくい止めないとまずいと思いますが、そのためには若手がイメージできて、ある程度安心して進むことのできるキャリアパスが構築される必要があるかと思います。この問題は、「学会マターではない」、「学会で議論しても出口がない」などの理由で避けられてきてますが、かといって他に議論できる場があるわけでもないので、やはりこういう場でも議論しないといけないのではないでしょうか。
若い方々が博士課程に進学するかどうか迷ったときに、最も決めてになることの一つは、職としての安定性だと思います。そこが、他の業界に比べて相当ひどい状況にあるので、そこをなんとか改善する必要があるのだと思います。
これについての一案として、
「安定性と競争性を担保する 日本版テニュアトラック制度の提案」 http://scienceinjapan.org/topics/20130925.html
というのを提案してます。案としては各方面からかなり評判の良い案なのですが、なかなか実現されません。こういうものをたたき台として議論して十分に揉まれた案が、脳科学連合とか、学術会議などでのさらなる議論を通じてさらに改良され、それが文科省、財務省、国会議員さんなどに届けられるということが大切なのではないでしょうか。
—
あと、人材育成の内容的なこととして、3〜4名の方々は、情報処理関連の人材育成を重要視されてますね。情報処理関連、特にプログラミングに関しては、中学・高校や、大学の教養課程で文系・理系を問わず必須にしてほしいと思っています。脳科学では、今後、各種ビッグデータが研究の対象・成果の中心的なものになってくるのは確実でしょう。そういうデータを自由自在に解析し、意味を抽出することができる能力は脳科学に必須なだけでなく、途中から企業などに就職する、あるいは起業するような場合でも、大きな武器になると思われます。これは国としての教育の戦略にも関わってくることはずですが、日本ではそのあたり後手後手に回ってしまってませんでしょうか。
—
以上のようなことについても、ぜひ若い方々のご意見も伺ってみたいですね。
どちらも、シンプルで本質的なクエスチョンですね。
ムーンショットという言葉は、柚崎先生のスライドでも紹介されてますし、この企画の紹介スライドの2枚めの背景の絵はここからとっているのですが、自分もとても良い言葉だと思ってます。
脳科学で、この言葉が最初に使われたのは、自分が知る限りでは、2010年のSociety for Neuroscience meetingで、パトリック・ケネディ下院議員(当時)のスピーチではないでしょうか。
https://www.youtube.com/watch?v=KAtsz5-1Jqo
これ、自分も現場で見たのですが、熱いスピーチで感銘を受けましたが、米国のBrain Initiativeもここに端を発しているのではないかと思います。
https://www.nature.com/news/2011/110526/full/news.2011.324.html
本質的なクエスチョンというのは、高校生でも疑問に思うようなシンプルで大きなもので、そういうものこそコミュニティを挙げて取り組むべきものではないかと思います。新規技術や、新しい「領域」のようなものは、そういった本質的なクエスチョンに答える上で、強力なツールになることがあるわけですが、日本では原点が忘れられ気味でツールオリエンテッドになってしまうことがありがちで、そこは本末転倒にならないように十分気をつける必要はありますね。
記憶や意識の「本当に知ってみたいところ」。例えば、記憶ですと、単語やメロディがどうやって記憶されているのか。意識ですと、ネアンデルタール人に意識があったのか、とか。。
最近もムーンショット研究なるものが話題になっています。ムーンショットという非常にシンプルですが、当時は不可能に思われたような課題を出すことも、また脳科学の10-20年のアプローチに大切だと思います。うまくいかなくて恥をかいても、インフラの整備などには役立ちますし、アウトリーチとして関心を呼び起こしサポーターを掘り起こすのにも有用でしょう。表層的に難しさを強調して自慢するような課題名、量子コンピュータなど定義を混乱させて売り込むテーマ、そして官僚的なキラキラネームが目立つ今日ですが、やはり原点に立ち返り、謙虚な姿勢で研究に取り組みたいものです。
なるほど、キャンペーン用語の終焉段階、という意味ですね。確かに、そうかもしれません。ある新しい技術は、目新しいだけのところを越えて(目新しさからくる美を競う、というような段階を越えて)、多くの研究者が日々使いのツールとして、実際の必要に迫られて必然的に使っている、という状態がくると、その技術は真に価値が高い、と言って良いのでは、と思ってます。3D電顕のようなものも、ぜひ、そういうところまで行ってほしいし、持っていく価値があるのだと思います。機器数を増やし、オペレートできる人がもう少し増え、あとデータの自動解析アプリのようなものができると、そのレベルにまで達するのかな、と。
プログラミングについて言えば、自分としては、高校や大学の教養課程で文系・理系を問わず必須にしてほしいと思ってます。そのうち何割が本当にどんどんプログラミングできるレベルに達するのかは別として、すべての人がその基礎に触れる機会を与えられるべきではないかと。で、適正のある人達というのは、そこからは自分で勝手にできるようになると考えます。うちの研究室に一人しかいない院生(D4)は、医学部卒のMDですが、自分でコーディングして、in vivoで行動中のマルチ細胞の神経活動の解析を行い、行動のデコーディングとか、情報論的な視点からの解析とか、どんどんやってます。機械学習については、神谷さんのところの修士の院生の方にまずやっていただいたものを見て、本人が一人でどんどんできるようにわりとすぐなりました。で、いまや、うちの研究室の助教とかポスドクとかの指導をしてます。プログラミングの適性がある人というのは、昔も今もそういうものだと思うのですが、すべての人が頭の柔らかいうちに、その基本に触れてもらう機会を作る、というのが重要ではないでしょうか(その上で、適性のない人が、プログラミングをびしびしできるようになる必要はない)。
ところで、記憶や意識の「本当に知ってみたいところ」は、どういうところか、差し支えなければお教えいただけるとありがたいです。
個人的には、例えば記憶や意識とか、多くの先生方の研究が私が本当に知ってみたいところに、全く答えてくれないので、フラストレーションを感じています。
「コネクトミクスの黄昏」というのは、コネクトミクスというキャンペーン用語の終焉段階にあるという意味です。コネクトームというのが、キャンペーン用語であるという印象があったのですが、そういう意味での使用がなくなりつつある。昔は、ゲノミクスという言い方があったのですが、最近はあまり見かけなくなっていると思います。ゲノムが安価で読めるようになって、その方法論も大げさなものでなくなっているということなのだと思います。ただ、コネクトミクスに関しては、依然として、精密な科学的知見そのものより、いい加減でも「美」を競う、雑誌やニュースの表紙を飾るみたいなところがあって、そういうところにある種の黄昏を感じるわけですが。。
日本の場合、神経科学研究の大きな基盤が医学分野にあります。医学教育は最近カリキュラム的にもきつくなってきているので、医学者を育成するカリキュラムではICT関係、特に本格的なプログラミングは扱えないのではないでしょうか。教授世代ですと、学生時代に存在もしなかった領域、例えばディープラーニングなどを学生レベルから自分で勉強しているという先生は珍しいのではないでしょうか。こういう状況では、ますます手が打てないということになりそうです。医学分野のみが主導する神経科学者のサポートではなく、違う分野からのアプローチがとても大切だと思います。
順番としては、脳科学で取り組むべき大きなクエスチョンを考えて(例えば、記憶とは何か、意識をつくることはできるのか、心の病とは何か、など)、それを解くには何が必要かをまっさらな状態で考えみてみることが大切ではないでしょうか。その次に、現状、先端的な場で得られている技術や情報も考慮に入れ、それを踏まえ、自分(たち)の置かれた状況でできることを考えて、現在、何をするべきかを考える、という、そんな流れが良いのではないでしょうか。山形さんのご指摘のように、日本の脳科学というか、最近の日本の科学全般の傾向としては、シーズオリエンテッド、技術オリエンテッドになりがちである、というようことはあるかもしれないとは感じています。大きなクエスチョンをじっくりと考えることをとばして、まず世界のどこか他のところで出てきた新規技術、目新しい流行の知見ありきで、それで何をしよう、という流れになりがち、ということですね。
これが事実かどうかはともかく、本来は、解くべき問題とその解決法をまっさらなところから考えてみることが先にくるべきだと思います。「トップダウンプロジェクト」をポジティブに考えると、そういう意味で捉えるのが良いのではないでしょうか。
山形先生は、コネクトミクスを10年くらいまえから重要だとおっしゃっていたような気がしますが、現在、「コネクトミクスの黄昏」とおっしゃる意味は、どのあたりでしょうか?
自分としてましては(コネクトミクスのツールの一つである)3D電顕というのは、汎用的で強力なツールである、逆に言えばツールにすぎない、という認識なので、この技術を使うことによって開拓できる大きな世界が残っていると思います。窪田先生のプレゼンへのコメントのところでも述べましたが、心の病についてこのスケールでの病態は、全くと言っていいほど未開拓だからです。
「IT関係の層の薄さが日本の神経科学の大きなネックになっていきそう」という点は、全く同意です。この認識は日本でもたぶん広く関係者に共有されています。しかし、認識が共有されている場合であっても、有効な手が打てないのは(脳科学に限らず)日本の研究者コミュニティの弱点かと思います。そのあたりを、こういう議論をきっかけに改善しいくことが必要なのではないでしょうか。
大きなプロジェクトを考えるときに、人材育成の観点からも大丈夫か否か、というところにはしっかり留意していただきたいところですね。ご指摘のように科学にとって不可欠な多様性を減らしてしまう方向にいってしまう可能性もありますので。そうならないためにも、若手・中堅の研究者には、現場からの意見を匿名でもよいので発信していただくことが大切なのではないでしょうか。人材育成やキャリアパス問題については、おそらく討論会本番でも中心的な問題の一つとして議論すると良いのでは、と思います。
「世界の脳科学」を意識するということは、それを承知した上で本質的なことに取り組むということです。私は、世界を知っているか、流行を知っているのか、というのが、独自なことに取り組む、流行をやらないということで非常に重要なことだと考えています。ところが、日本の科学者には、世界や流行を知ることなく、世界的には陳腐なことや遅れた流行をやってしまうという傾向が強いのです。意識、スパコン、モデル生物(マーモセット含めて)、ゲノム編集、疾患などにしても、世界では皆同じようなことを言っているように思います。
また、世界の脳科学のなかでは、科学政策的、予算的な配慮から、総説を書いたり、グラントを取ったり、シンポジウムに呼ばれたり、賞をもらったりして、祭り上げられているような内容や研究者も多い印象ですが、そこをどう見極めるか、という視点も大切だと思います。選択と重点化することで、周辺分野から人材を吸い上げるために、選択されなかった領域や人材を干して潰してしまうという風潮もますます強まっています。
個人的には、現在は、コネクトミクスの夜明けではなく、コネクトミクスの黄昏ではないか、と思っています。おそらく、Googleなどの巨大IT企業や中国など桁違いの投資や人材の投入をしているような企業や国の存在も考慮しないと「世界の脳科学」を意識したことにならないと思います。資金力、対外排他性(オープンサイエンスの意識が不十分)、特にIT関係の層の薄さが日本の神経科学の大きなネックになっていきそうです。ビッグサイエンスについては、物理学の加速器みたく、あまり個人などを意識することなく、科学そのものを推進するという意識が大切になるのではないかと思います。
もちろん、小さな個人を中心にした研究というのは、昔からありますし、こちらも大切です。個人的に感じているのは、あらゆる点で、「多様性」が大切でないか、ということです。最近もネットでは、若手、女性を含めて「おじさん」「じじい」的な人たちの行動様式が議論されていましたが、こういう「おじさん、じじい」的な要素の強い研究プロジェクトの運営をどうするのか、ヒラメ化して忖度ばかりしている若手研究者の姿というのがもっと議論されるべきではないでしょうか。
「スパコンでヒトの脳を作る!?」(山崎先生、五十嵐先生)についてです。
1個のニューロンのことを数式で書けるようになるためには、まだまだ長い道のりがあると思います。また、1000億個のニューロンだけでなく、膨大な数のグリアもあり、そして、それらが、様々な状態(ステート)に変化するので、脳活動をシミュレートすることは、容易なことではないように思います。現在の知見で、線虫程度の神経系でできるのかどうか興味があります。
それはともかく、これからの脳科学では、オミクス解析、イメージングなどで膨大なデータが出てきて蓄積されてくることになるはずですので、それらを解析するのに必要なコンピュータのリソース、それを使いし、モデル化できるような脳科学者の育成は、筧先生の戦略にもありましたが、どう考えても絶対に必須ですね。
たぶん、「脳科学者の育成」のため、というよりも、今後のすべての研究者は、ITについての素養を身につける必要があるかと思います。研究者コミュニティ全体で議論するべきでしょう。
「BRAIN Initiative の先を見据えて」(筧先生)についてです。
「BRAIN Initiative が外した問題を見据え」とあります。Brain Initiativeとかぶっても仕方がないという側面は間違いなくありますね。BRAIN Initiativeは基本的には技術開発と正常な脳の理解を進めているように思いますが、「外した」とまで言えなくても中心的には取り組んでいない問題といして、脳の病態の理解があるかと思います。病態を見ることによって、逆に正常な情報処理の原理が見えてくる、ということもあるに違いないでしょう。ですので、大量の病態観測データをシステマティックに蓄積していく、ということは一つの大きな目標となりうるかと。
膨大な蓄積データから原理を読み解くような「未来のケプラーを神経科学にリクルート」というのはまさに必要な戦略かと思います。そのあたりも、「どうめざすのか」の部分でぜひ議論したいとことですね。
「Moonshot ー分子から脳宇宙を目指す」(柚崎先生)についてです。
疾患の克服に創薬からアプローチする場合その対象は何らかの分子ということに普通はなるはずということ、遺伝子改変がやはり今後も主要な方法であり続けるだろうということ、などを考えると、分子を起点に、回路、個体などの各階層の理解を進めていく、というのはたいへんリーズナブルなことであるように思います。柚崎先生のスライドにあるスキームを基にして、他の先生方のスライドの内容などを加味したスライドを討論会の本番のときに紹介させていただきたいと思います。
「シンプルな神経系で、情報の流れを入口から出口まで全部見る」(青木先生)についてです。
線虫というシンプルな系で、コネクトーム、イメージングなどによって、入力から出力まで情報処理を完全に把握することを目指す、ということですね。神経細胞の個数や繋がり方がほぼ完全に既知である、ということはたいへんな強みであろうことは想像できます。ポイントは、そこで得られた知見が、どの程度哺乳類の脳にも適用可能なのか、ということでしょうか。
疾患に興味を持つ自分の視点からですと、線虫の神経系で、脳の病態の何らかの側面がモデル化できるかどうか、という点に関心があります。
・線虫の神経系にも炎症というのは起こるのでしょうか。
・線虫にもグリアはあるということですが、ミクログリアとかアストロサイトに対応するものはあるのでしょうか?
・神経細胞の機能的な性質が長期的に変化してしまう、というような知見はありますでしょうか。
他に以下のような点も興味があります。
・「線虫ですら解析が困難(大量のデータから意味をどう抽出するか)」とありますが、神経細胞の活動のイメージングの結果から、機械学習のような手法で、線虫の状態や行動を推定する、ということができるのは間違いないように思うのですが、そのあたりの状況はどうなってますでしょうか。
・得られた神経活動などの大量データは、「ドライ」の研究者にとって面白い研究対象になりうると思うのですが、データの公開のプラットフォーム的なものは整備されているのでしょうか。
「脳状態の標準理論に向けて」(坂田先生) についてです。
「脳状態」というと、まずは、短いタイムスケールの、電気的活動のパターン、みたいなものを思い浮かべられそうが、そういうものをイメージしていらっしゃるのでしょうか?
自分は病態を研究しているので、「脳状態」という言葉からは、ゆっくりとしたタイムスケールでの各種細胞・脳部位での遺伝子・分子の発現パターンや局在、それらの形態・コネクションをイメージします。
図を拝見すると、空間的にミクロからマクロまで、時間的にミリ秒から年までのスケールを示されてますので、そのあたり、全部、ひっくるめて、ということでしょうかね。そういうもののた標準理論を作ろう、ということになりますと、まさに、山形先生がおっしゃるところの、世界の脳科学で今世紀に何をすべきか、というレベルのものかもしれません。
その中で、何か特定のプロジェクトとして、この図のどこかにフォーカスして研究を進めるのか、広く薄く進めるのか、というようなことが議論としては有り得そうです。フォーカスするのであれば、
1) 時空間軸のどのようなものにするのか、
2) 注意、意識、睡眠、麻酔、発達、加齢、脳疾患、などが脳状態の例として書かれているが、どれにフォーカスするのか、
などというようなことを考える必要があるのかもしれません。
自分の興味で偏っていて恐縮なのですが、発達・加齢も含めたような脳の疾患の各種状態を、特徴、機能、メカニズムという各視点の中で切り口をきめて、明らかにしていく、というようなプロジェクトが良いのでは、という具合に自分は感じます。
戦略として、自動化技術を挙げてらっしゃいますが、自分もそのような技術の開発はぜひ進めていただきたいと思います。開発を進める技術は、汎用性が高く、多くの研究者が日々使いで使えるようなもの、あるいはここで議論している大規模プロジェクトで、ファクトリー的にどんどん実験・解析を進むようなもの(例えば窪田先生のプレゼンに出てくるコネクトミクスデータの自動解析アプリのようなもの)、を対象にしていただきたいです。
「コネクトミクスの夜明け」(窪田先生)へのコメントです。
3D電顕を用いた研究のニーズは、極めて高いものがあると感じてます。生理研で、3D電顕を用いた支援的共同研究がなされていた、うちの研究室でもお世話になっているわけですが、大人気でニーズが高すぎて、なかなか順番が回ってこない、数ヶ月待ち、のような状態になっていますよね。神経細胞や細胞小器官の微細な形態を3D構築できるわけで、汎用性が高くニーズが高いのは当然という感があります。
で、具体的にどのようなサンプルが主に解析されているか、ということは存じていないのですが、自分自身としてのニーズは各種疾患モデルマウスの表現型解析ですが、おそらく何らかの実験操作を行ったモデル動物の脳で、その操作の効果を見る、というタイプのものが多いのではないでしょうか。
この分野で今後行われるべきプロジェクトの可能性の一つとして、そういった各種疾患のモデル動物(遺伝子改変や、ストレスをかけたり薬物を投与するなどの各種実験操作を行った動物)について、3D電顕を使った表現型解析をシステマティックに行い、しっかりとしたデータを蓄積・公開していくことなのではないかと思います。
これまでの研究によって、様々な遺伝子改変や各種刺激などの様々な実験操作によって、脳内の特定の表現型のパターンに収束することがあることがわかりつつあります。そういう表現型(中間表現型)の新たなパターンを同定していくことが想定されます。脳の疾患は、そういう表現型の組み合わせであるという考え方も可能で、そこを動物モデルで着実に掘り起こしていくことが、実際の創薬研究からも期待されているところだと思います。
こういったテイストのプロジェクトであれば、長期的には疾患の克服を目指しつつも、その中で研究者も自分の興味を追求する枠組みの中でプロジェクトに貢献することができますし、支援する側も膨大なデータの蓄積を活用し、自分の興味の視点に沿ってメタ解析を行うことができるなどのメリットがあります。
研究者コミュニティからのニーズも高く、支援する側にもメリットがあり、最終的に世界の研究者に役に立つまとまったデータを提供できるようなタイプのプロジェクト、つまり各方面にWin-Winになるようなそういった類のものにこそ重点的に資源を配分していただきたいかなと、思うわけです。
資源の意味は、設備と、それをオペレートできるエキスパート、そのデータの解析アプリ、得られたデータを蓄積するデータベースなどです(これは別に議論したほうが良さそうです)。
おっしゃるような考え方は、たいへん重要ですね。さらに言えば、脳科学というものが最終的に何を目指すのか、というようなところから考え始める、と。そこを見据えた上で、今、ここ10〜20年で日本の研究者コミュニティが限られたリソースでどのようにしたら最も貢献できるのか、という議論をするのが良いのではないでしょうか。
自分自身の場合ですと、脳科学の大きな最終目標の一つとして脳の疾患の克服があって、その中で今、自分が貢献できることは何なのか、をたまに考えてみます。今回の企画では、そういった具合で、脳の疾患の克服を考えたときに、ここ10〜20年で日本の研究者コミュニティが何をどう目指すべきか、という1研究者の視点で発言してみたい、と思っています。
日本の脳科学ではなくて世界の脳科学をどうするのか、次の10~20年ではなくて今世紀に何をしたいか、という問いかけや視点が大切だと思います。
関係者の皆様、お疲れ様です。実りある企画となることを陰ながら応援しています。