【帰ってきた】ガチ議論
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hendatoomoimasenka

ある学生の疑問~学術雑誌のシステムについて~

ツイッターまとめ
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博士課程の学生です。私みたいな未熟な研究者(の卵?)が、このような場所に寄稿しても良いのか悩んだのですが、これから研究者を目指す自分にとって、この業界について非常に疑問に思っている点があったので文章にまとめてみました。

いつもは自分が読む側であったウェブサイトに自分が書いた文章が掲載されるので、少し緊張しながらこの文章を書いています。このオピニオンのコーナーは、掲載された記事だけでなくTwitter上で様々な人の意見を見られるのがとても楽しいので、批判コメントも含めて私の疑問に色々な人に答えてもらえればいいなと思っています。

私は本名でTwitterをやっていますが、自分のTwitterアカウントで今回の疑問を出して見ず知らずの人に叩かれたりすると凹んでしまうので、今回はペンネームを使わせてもらっています。ネット上で匿名での活動は好ましくないと思う人がいるのは重々承知しておりますが、どうぞご容赦ください。

さて、私の疑問ですが、それはズバリ論文の投稿料・掲載料に関してです。

私が学部4回生で研究室に配属になったばかりの頃、先生や先輩たちが研究論文を雑誌に掲載させているのを見て、研究者として尊敬+憧れの感情を持つとともに、印税(もしくはそのようなもの)をもらってるんだろうなぁと思って自分も頑張ろうと思っていました。でも、お金のことを聞くのはその頃の自分にとっては難しかったので、具体的にいくらもらえるのかとかは聞きませんでした。でも、飲み会のときとかに、先生におごってもらったり先輩が少し多めに出すのを見て、たくさん論文を出してるからたくさんお金をもらってるんだろうなぁと少し羨ましく思った記憶があります。

その後、博士課程に進む決意をして博士課程への進学が確定したときに、いつも面倒を見てくれていた准教授の先生に思い切って質問をしてみました。そのときにどんな言葉で質問したかは覚えていませんが、「論文を出すといくらくらいもらえるんですか」とか「やっぱり良い雑誌の方が原稿料も良いんですか?」とかと聞いたと思います。自分の質問の言葉はあまり覚えていませんが、その答えは今もはっきりと一言一句覚えています。先生は「逆逆。こっちが払うんだよ。論文を出せば出すだけ貧乏になるんだよ。面白い世界だろ。」とやや自嘲気味に笑って答えてくれました。

私はその答えを聞いて頭が完全に混乱しました。その後にネットや書籍などで色々と調べて、学術論文に印税のようなものはないこと(依頼された総説論文には稀に謝礼が支払われることがある)、ランクの高い雑誌やオンライン雑誌には掲載料(20万円以上も珍しくない)がかかること、更に一部の雑誌には掲載料だけでなく投稿するためにお金がかかること(論文がリジェクトされても投稿料は戻ってこない)、などがわかりました。

でも、これっておかしくないですか?私たちの論文を掲載している雑誌は、その雑誌を購読してもらうことで収益を得ているわけですよね。言ってみれば、雑誌の中身(コンテンツ)は商品なわけです。それなのに、商品を仕入れるのに、お金を払わずに逆にお金をもらっているということになるんです。別の言い方をすれば、そういった雑誌社は、お金をもらって仕入れた商品を売っているわけです。

私はまだ学生なので世の中のことがあんまりわかっていないのかもしれませんが、自分の常識としては、このシステムは非常に不自然に思います(逆に言えば、このシステムを考えだした人はすごいと思います)。そのため、このようなシステムは他の分野でも珍しくないのか疑問に思いましたので、文章にまとめてみました。

さて、以下は上記のような疑問を文章にしていて思ったことです。蛇足になってしまいますが、せっかくの機会なので付け加えさせていただきます。

今回の雑誌システムの矛盾点(?)にも関係するのですが、今の世の中は研究者にお金が入ってこないような流れにあるような気がしています。もちろん、研究者はお金儲けなどにとらわれてはいけないという風潮があることは理解しているつもりです。ですが、研究者がその働きに応じた収入を得るのは当然で、それが成り立たないと次の世代(特に優秀な層)がこの世界に入ってこなくなるのではないかなと心配に思う気持ちがあります。

実際に、学部生の頃に優秀だなと思っていた私の周りの人は、ほとんど博士課程には進まないようです。それどころか、生物学の分野に進むことすら避けているような印象があります。もちろん私は優秀な人ではないということは自覚しているのですが、自分は小さい頃からこの世界に憧れていたので、生物学の博士課程に進んだことを情報弱者だとかと嘲笑する風潮には抵抗を覚えます。

ですが、世の中はお金を中心に回っているということに少しずつ気づいてきたので(気づくのが遅かったかもしれませんが)、現在の状況では確かに生物学の博士課程に進むのは「得か損」かという観点では「損」になる(=つまりは博士課程進学者は情報弱者)ということも理解できます。でも何となく腑に落ちません。

何だかまとまりのない文章ですみません。「お前は金持ちになりたいのか?それとも研究者になりたいのか?」と言う叱責の声が出るのは承知しています。ですが、私は生物学が好きですし、この分野は大事だと思っています。そして、その研究を続けていたいとも思います。一方で、きちんとした報酬も欲しいとも思っています。

でも、まずはきちんとした業績を出すのが大事ですよね。その上で報酬を要求すればいいのですね。長文かつ駄文失礼いたしました。

執筆者:研究者の卵(有精卵であることを望む)
BioMedサーカス.com・オピニオンより執筆者の許可を得て転載させていただきました。

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“ある学生の疑問~学術雑誌のシステムについて~” への13件のフィードバック

  1. 学術誌は同人誌の延長なんでしょうね。
    超名門の掲載されれば教職員になる資格が得られる同人誌。

    掲載料がもらえると、編集内容に沿った内容を投稿する必要がありますし
    学術誌の権威はなくなるので、そうしたがらないのでしょう。

  2. KM より:

    このような特集がありましたので、ご参考まで。

    科学出版の未来(Nature Japan 特別翻訳記事)
    http://www.natureasia.com/ja-jp/nature/specials/contents/scipublishing/

  3. saebou より:

    ルイス・ハイド『ギフト-エロスの交易』はお読みになったことがありますか?これはそもそもどうして学術コミュニティでは論文掲載者にお金が入らないのかについて贈与経済の観点からかなり説得力のある議論を展開している本で、この分野では古典といえると思いますのでもしご興味あればおすすめいたします。

    http://www.amazon.co.jp/%E3%82%AE%E3%83%95%E3%83%88%E2%80%95%E3%82%A8%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%81%AE%E4%BA%A4%E6%98%93-%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%82%B9-%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%89/dp/4588490206

     ただし、オンラインジャーナルの会社などが学術雑誌の値段をつりあげて儲けている(シリアルズ・クライシス)というのは別の問題でして、ご存じかもとは思いますがエルゼビアボイコット運動なども起こっていますので、そこは今後学術コミュニティが解決していかなければならない問題だろうと思います。

  4. FJさんが言及されていた、「同分野のレベル向上させるという良心的な目的」が無くなるかどうかというところが、ピアレビューのシステムが働くか働かないかの境界線のような気がします。

  5. FJ より:

    学術誌は企業広告みたいなものです。それを見てグラントがもらえる。講演依頼がくる。という考え方もあります。
    Reviewerに何のインセンティブが無いほうがおかしいと私は思います。同分野のレベル向上させるという良心的な目的以外には、同分野の研究者に嫌がらせを可能という負の面もあるのにペナルティもほぼ無い。

  6. Kotaro Kimura より:

    ちょっと時間が経ってしまっているかもしれませんが、、、

    「リクルート」社の雑誌と同じシステムだと思えば分かり易いと思います。つまり、我々の「論文」を「広告」であると考えれば、「良い雑誌」に広告を出す方には「掲載料」がかかり、かつその広告が載った雑誌を買うためにもお金を払う、というシステムがそんなに不自然ではないと理解できます。そして、「良い雑誌」に載れば例えば研究費獲得が容易になるわけで、これは「掲載の価値があった」と解釈することができます。この結果、投資した研究費が新たな研究費として返って来るわけですから、うまく循環していると言えるでしょう。

    自分自身の収入はまた別の問題だと思います。簡単に言えば、自分自身の研究成果が大きな経済活動(簡単に言えば売り上げ)に結びつけば、その一部は多かれ少なかれ何らかの形で自分の懐に入ってくる可能性が高いでしょう。

  7. セブン より:

    私も学部学生のころそう思っていました。研究者になりたいという人が少なくなってきたことについて、何か現実的なリターンがないといけないのかもしれません。論文とは異なりますが、特許収入を個人帰属にするとか。
    最近読んだ新聞記事に新小学校が将来なりたい職業ベスト10が掲載されていましたが、昨年山中先生がノーベル賞を取ったにも関わらず研究者は入っていませんでした(医師は入っていました)。そんなに研究者に夢がないのかと愕然としました。

  8. FoggyBottom より:

    もし印税を払う雑誌があれば、その雑誌の値段は、印税を払わない/掲載料を取る雑誌のものより高くなるでしょう。雑誌の値段と読者数にはおそらく相関関係があるのだと思います。高いとあまり多くの人に読まれなくなるのではないでしょうか。研究者が論文を書く目的は、直接的には多くの人にそれを読んでもらうことにあるでしょう。給料なり研究費を得る機会は他にあります。研究者もプレスも、論文・雑誌を沢山の人に読ませたい、という点で利害が一致して、このようなシステムになったのだと思います。

  9. 素朴で重要な疑問ですね。長く研究者をやっているとこういう明らかにおかしなことを疑問とも思わなくなってしまうところが面白いところです。

    この問題には実はたくさんのポイントが隠れていると思いますが、capecodさんのご指摘されている「胴元」(=外国の大手出版社)が常に一人勝ちをする状況をなんとかしたいところです。日本の貴重な税金が必要以上に彼らに流れてしまっているだけでなく、世界の科学の進み方がこの仕組みのために遅くなってしまっているとすら思っています(この理由はまた場所をあらためてきちんと議論してみたいところです)。ネットで情報を安価で容易に世界に発信することが可能な時代になったわけで、この状態をそのままにしておく必然性はないように思います。

    その一つの方法として、JSTのJ-Stage( https://www.jstage.jst.go.jp/b… ) にはぜひ頑張ってもらいたいところです。これを使っている雑誌の多くでは投稿料はかからないかあるいは格安になっているのではないでしょうか。J-Stageでは査読システムとして、ScholarOneなども使えるようになっており、実用上はかなりなレベルまできています。
    これに加え、
    1) 見た目のデザインをもっとよくする、
    2) PDF版をつくるサービスもいれる、
    3) 各ジャーナルの独自のサイト(プラスユニークなURL)も使えるようにする、
    というようなことなどをすれば、外国の大手出版社にも十分に対抗できるようになるのではないでしょうか。

    研究者の卵さんのそもそもの論点である、いい研究成果を発表しても研究者自身にメリットがない、という部分もなんとかする必要があると思います。おっしゃるように、よい研究をいくら行なっても、収入に影響がないのでは研究に適した能力を持つ人材も逃げてしまいます(実際、日本ではそういう状況があると思います)。ただ、掲載料そのものは殆どの場合研究者自身と言うよりも、研究費から支払われることがほとんどなので、これは今の仕組みで良いのではないかという気がします。研究者が著作権料みたいなものを直接とるということではなく、発信した情報がどの程度利用されたか(その論文へのアクセス数・ダウンロード数、引用数など)を指標として実績を評価し、その評価がなんらかの形で報酬にある程度反映されるようになる、という方法が良いのでは、と思っています。発信した情報がどの程度利用されたかを指標として考慮した実績評価に連動して研究費と間接経費の額がきまり、間接経費の一部が研究者の収入に回る、というような仕組みですね。この案については、こちら http://scienceinjapan.org/topics/031413.html のほうで議論しています。

  10. Guest より:

    素朴で重要な疑問ですね。長く研究者をやっているとこういう明らかにおかしなことを疑問とも思わなくなってしまうところが面白いところです。

    この問題には実はたくさんのポイントが隠れていると思いますが、capecodさんのご指摘されている「胴元」(=外国の大手出版社)が常に一人勝ちをする状況をなんとかしたいところです。日本の貴重な税金が必要以上に彼らに流れてしまっているだけでなく、世界の科学の進み方がこの仕組みのために遅くなってしまっているとすら思っています(この理由はまた場所をあらためてきちんと議論してみたいところです)。ネットで情報を安価で容易に世界に発信することが可能な時代になったわけで、この状態をそのままにしておく必然性はないように思います。

    その一つの方法として、JSTのJ-Stage( https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja ) にはぜひ頑張ってもらいたいところです。これを使っている雑誌の多くでは投稿料はかからないかあるいは格安になっているのではないでしょうか。J-Stageでは査読システムとして、ScholarOneなども使えるようになっており、実用上はかなりなレベルまできています。
    これに加え、
    1) 見た目のデザインをもっとよくする、
    2) PDF版をつくるサービスもいれる、
    3) 各ジャーナルの独自のサイト(プラスユニークなURL)も使えるようにする、
    というようなことなどをすれば、外国の大手出版社にも十分に対抗できるようになるのではないでしょうか。

    研究者の卵さんのそもそもの論点である、いい研究成果を発表しても研究者自身にメリットがない、という部分もなんとかする必要があると思います。ただ、掲載料そのものは殆どの場合研究者自身と言うよりも、研究費から支払われることがほとんどなので、これは今の仕組みで良いのではないかという気がします。研究者が著作権料みたいなものを直接とるということではなく、「情報がどの程度利用されたか」(その論文へのアクセス数・ダウンロード数、引用数など)を指標

  11. capecod より:

    これは簡単な話でして、ばくちで胴元が儲かるのと同じシステムだということです。ばくちの参加者はごく一部は得をしますが、ほとんどは負けて損をします。しかし胴元はだれが勝とうが常に得をする仕組みになっています。アカデミズムといえば聞こえはいいですが、実態として学術誌は営利企業でして、そういう利益システムでまわっています。その意味では確かに研究者は「情報弱者」なのかもしれませんね。

  12. 脳科学系のポスドク研究員です。確かに、論文書いて印税が入らないどころか、お金取られるのって一見不思議ですよね。私も学生のころ同じことを思いました。そでれも研究者が論文を出すのはどうしてか?それは、研究者にとってパブリケーションは義務だからです。論文を出すとそれが評価につながって、良いポジションに付けたり研究費が入りやすくなったりします。掲載料は、そのための先行投資と捉えるとよいかとおもいます。

  13. Kazuhiro Maeta より:

    助教をしています。同様の疑問をずっと持っていました。ただ、科学論文は教科書や参考書とは違って不確定な情報も多く含んでいます。その不確定な情報を多くの研究者が再現して初めて教科書になります。著者に執筆料を払うジャーナルを作ればよいのかもしれません。が、その場合、情報を公開した責任を負う必要があると思います。

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